日本で装備の最終調整をする様子(左から芦沢さん、中沢さん、井之上さん)

100万円超の登山費用をどう集める?

 とはいえ、5人はまだ登山歴数年。背伸びをしすぎて高難度の山に挑めば、歯も立たずに撤退、最悪命を落としかねない。そこで白羽の矢が立ったのが、2022年秋に日本山岳会ヒマラヤキャンプ隊が登頂に挑んだものの失敗した未踏峰・プンギだった。

「当時の報告書を読んだり、実際に隊員に会って話を聞いたりして、登頂成功のための戦略を練りました。前回は隊の人数が少なく登山期間も短かったため、3人中2人が高山病にかかり敗退していた。しっかり高所順応できるよう2カ月の登山期間を設けつつ、誰かが動けなくなっても他のメンバーで山頂を目指せるよう5人の人員を確保すれば、勝算はあると考えました」(横道さん)

 万一に備えて、ヘリコプターでの救助費や治療費をまかなえる1人あたり16万円の山岳保険にも加入した。だが、ヘリが向かえるのは標高5700メートル地点まで。それより高い場所で事故がおきれば救助は不可能だ。だからこそ今回は、普段ロープなしで登るような所でもきちんとロープを出すなど、慎重に慎重を期すことにした。

 準備にあたり、どうしても5人の力だけでは難しい場面では、大人の力も借りた。

 国内の山にはないクレバス(氷河にできた深い割れ目)に仲間が落ちた場合のレスキュー技術を学ぶため、日本山岳会を通じてプロのガイドをつけてもらい、垂直に反り立つ崖を使って何度も練習した。1人100万円以上かかる登山費用は、50万円分は各自山小屋でアルバイトをするなどして捻出しつつ、残りは各大学山岳部のOB・OGたちに寄付を募り、総額350万円を確保した。

 また、「長期の海外遠征成功のカギはチーム仲の良さ」という大人たちからのアドバイスを受け、ミーティングなど事あるごとに顔を合わせ、互いへの理解を深めてきた。

「去年の冬は、3日おきに雪山に入りました。ずっと一緒に過ごすうち、『こいつは朝やたらテンションが高いな』とか、メンバーのことが手に取るように分かってくる(笑)。プンギでの経験をもとに断言できるのは、6000メートル超えの環境では全員が肉体的にも精神的にも限界を迎えるということ。チーム内にわだかまりがあったら、けんかになってもおかしくなかったと思います」(井之上さん)

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登頂して喜んだのも束の間…