先月から上映されている映画「殿、利息でござる!」は、テレビ番組でもおなじみの歴史学者、磯田道史の評伝『無私の日本人』の穀田屋十三郎篇を原作としている。
 時は明和3(1766)年、仙台藩の重い課役によって破産や夜逃げが相次ぐ宿場町で、町の将来を憂う十三郎は、知恵者の菅原屋篤平治から秘策を打ちあけられる。藩に千両を貸し付け、毎年その利息を受けとって貧しい町民に配るという奇手である。意を決した十三郎と篤平治は数人の商人や庄屋を説き伏せ、彼らは自分たちの家が傾くのも覚悟で私財を投げだし、この無謀な計画を実行していく。途中で策が明るみに出れば、打ち首は避けられない。それでも、十三郎らはひたすら町の存続を願って遂行。6年かけて実現してみせた。
 しかも、金を出した9人は、自分の行った行為を善行ととったり口外したりすることを子々孫々にいたるまで禁じ、「つつしみの掟」として守りとおした。その証拠に、彼らの偉業は世に知られず、磯田がこの本を出版した後も、名乗り出る子孫は誰ひとりいなかった。
〈ほんとうに大きな人間というのは、世間的に偉くならずとも金を儲けずとも、ほんの少しでもいい、濁ったものを清らかなほうにかえる浄化の力を宿らせた人である〉
 磯田はあとがきにこのように書いている。本書に収められた江戸時代を生きた他の2人、中根東里と大田垣蓮月も、過剰なまでに浄化の力が宿る無私の人だった。
 映画がきっかけでもいい、この原作を通して、功名や虚栄とは違う幸福のあり方を探る人がほんの少しでも増えればと願う。

週刊朝日 2016年6月17日号

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