政局が目まぐるしく変わった今秋、10月7日、『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(朝日文庫)が発売された。「政治に関心はあれど、まったくわかっていなかった」音楽ライター・和田靜香さんが、衆議院議員・小川淳也氏(立憲民主党)に「がっぷり四つ」の対話を挑んだ、その足跡。2021年9月に単行本(左右社)として出版されたものに、特別編「戦争を起こさないために––––あれから3年」を加筆して文庫化された。刊行記念して行われた、ジャーナリスト・安田浩一さんとの対談の一部を要約して公開する。
* * *
安田:僕は当初、政治問答集のようなものだと思って読み始めたんです。でも、読み終えてみたら、とっても胸が苦しくなった。単なるその政治家とライターの激突、ぶつかり合いという文脈だけではなくて、「和田靜香」という人間の物語を感じたんですよ。……50代後半の女性で、アルバイトを掛け持ちしても生活が苦しい、そうした人々が抱えている、その不安や苦悩のストーリーが浮き上がってきて。正直、若干動揺しました。
和田:ありがとうございます。動揺しただなんて、どんなところが刺さったんでしょう?
安田:僕は男だから、社会的に和田さんより優位なポジションにいることは間違いない。でも、和田さんと同業者でフリーランス。僕らは常に不安定な中で生きていかなくちゃならないし、いつも不安の中にいる。僕自身も社会に対する不満や不安なんて、常に抱え続けています。そんな自分を、「和田靜香」の物語の中に投影したのかな。
誰にでも起こりうる物語
本書には、お金もなく、なにもかもうまくいかなかった頃の和田さんが、他人の家のきれいな花壇を見て、蹴散らしたい衝動にかられる、というエピソードが登場する。花に何の罪もないことは重々承知したうえで、他人の幸せを妬んでしまう。許せない。理不尽で不寛容な気持ちが抑えきれず、思わず足が上がりかける。だが、かろうじて思いとどまり、泣きながら電車に乗る。