白いTシャツが10万円──。ファストファッションが隆盛し、手ごろな価格で洋服が手に入るようになっても、人びとを魅了するハイブランドの世界。その魅力の源泉は、何なのか。一生縁がなくても、教養として最低限知っておきたい。AERA 2024年10月14日号より。
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マルクスの研究者で資本主義批判で知られる東京大学准教授の斎藤幸平さんが、現代美術家の村上隆さんとの対談の際、ある意味資本主義の象徴とも言えるようなハイブランド「メゾン マルジェラ」を着ていたことが話題になった。
1984年、詩人で全共闘世代に大きな影響を与えた思想家の吉本隆明が、コムデギャルソンの服を着て「アンアン」に登場。それを『死霊』など観念的な作品で知られる小説家で批評家の埴谷雄高が「資本主義のぼったくり商品」と批判し、「コムデギャルソン論争」が勃発した。
それから40年。コムデギャルソンの川久保玲に影響を受けたと言われるマルタン・マルジェラのブランドの服をめぐって、ファッションと知識人をめぐる議論が再燃したのは、興味深い現象だった。
ハイブランドについての基礎知識を分かりやすい語り口で教えてくれる、『教養としてのハイブランド フツーの白シャツが10万円もする理由』の著者で、YouTubeのファッション解説動画も注目を集める「とあるショップのてんちょう」さんによれば、モードの変遷を簡潔に紹介するなら、およそ10年区切りで、その時代の象徴となるデザイナーで言い表せるという。
90年代はマルジェラ
90年代の代表がマルタン・マルジェラだ。
「ベルギー生まれで、巨匠ジャン=ポール・ゴルチエの元でアシスタントとして働き1989年にブランドを設立しました。現在のマルジェラはどちらかというとスタンダードなアイテムの人気が高く『シンプルで品がいい』というイメージを持っている人が多いかもしれませんが、初期は『アンチ・モード』を掲げ、極端なダメージ加工が入った服など、のちに流行する『グランジスタイル』や、リメイク、再構築という手法を用いたアイテムの先駆け的存在でもありました」
そんなマルタンは2008年に引退。彼の引退後、ブランド名は「メゾン マルジェラ」に変更となり、14年に新たにクリエイティブディレクターに就任したのがジョン・ガリアーノだ。
この交代劇はマルジェラファンに衝撃を与えた。なぜならこのガリアーノ、クリスチャン・ディオールのデザイナーとして活躍していた11年に、反ユダヤ主義発言で逮捕され、ディオールを解雇されているからだ。