ガリアーノについては現在公開中の映画「ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー」で、ファッションビジネスという巨大なシステムのただ中で、「天才」と呼ばれるデザイナーでさえも消耗していく姿が克明に描かれている。
10年代はデムナの時代
2000年代を象徴するのはエディ・スリマンだ。
「タイトシルエットを流行らせ、黒スキニーパンツがおしゃれの定番となるきっかけを作った人。サンローランやディオールといったビッグメゾンを渡り歩き、18年にセリーヌのクリエイティブディレクターに就任したことでも話題になりました」
そして10年代が、デムナ・ヴァザリアの時代だ。2015年にバレンシアガのアーティスティックディレクターに就任、洗練された技術力を武器としていたブランドを、「ダサさ」をあえて取り入れた「トリプルS」というスニーカーなどで再ブレイクさせた。
「デムナがやった事を一言でいうと、ビッグシルエット。世の中の服をでかくしました。そこに加えてダメージの入ったジーンズやダッドスニーカー(お父さんが履くようなスニーカー)といったダサいとされるものをあえて取り入れた。ストリートのノリで流行を塗り替えました」
デムナは1981年、ジョージア生まれ。極端なオーバーサイズという発想は、あまり裕福でなかった幼少期に、お下がりや、成長しても着続けられるようにわざと大きいサイズの服を買い与えられていたという彼の生い立ちから来ているという。
ビッグメゾンと共存
近年は自身のブランドを設立しながらも、ビッグメゾンのクリエイティブディレクターになる例も多い。
「日本でいえばNIGO(A BATHING APE(R)創業者。2013年、クリエイティブディレクターを退任)がKENZOのアーティスティックディレクターに就任しました。デザイナー側にとっては箔になりますし、ビッグメゾン側も新しいアイデアを取り入れられます」
では、ファッションの専門家でない人物が、その主義などにとらわれずカッコよく着られるブランドとは、ズバリどこなのだろうと聞くと、意外な答えが返ってきた。
「僕はハイブランドの服も300円ぐらいで売っている服も、気にいったら等価値で着ます。服って一定の価格を超えると実用品から嗜好品に変わります。自分の趣味嗜好に合う服なのであれば、それを自由に着るのがいいんじゃないかなと思います」
(ライター・太田サトル)
※AERA 2024年10月14日号