帰宅して家族に自慢しても、誰もとり合ってくれません。そらそうだ、カミキリムシだもの。籠の中では数十匹のゴマダラが固まりあって、
「ギジギジ、ギジギジギジ、ギジギジギジギジギジギジ、ギジギジギジギジギジギジギジギジ、ギジギジギジギジギジギジギジギジギジギジギジギジ」
と、かみ合う音なのか、身体から発する音なのか、とにかく聞いたことのないような不快な虫の声を上げています。
「気持ち悪いから捨ててこい」と言われ、拒否しようと思いましたが私もこの声を近くで聞きたくないし、また庭に置いておいても家の中まで聞こえてきそうで……言われた通りに雑木林へ捨てに行くことにしました。
とっぷりと日が暮れた晩夏の畑道を「ギジギジの塊」をぶら下げて一人歩いて行きます。真っ暗ななかをほぼ手探りでたどり着き、その虫籠を手にしたまま、さぁどうしたらよいものか? これ、虫籠のフタを開けたらアイツどうなるのだろう? 集団で飛び出してきて、かみつかれたらどうしよう……暗闇とギジギジに不安はつのるばかり。
結局、虫籠に入れたままそれを放り出し、私は家に向かって駆け出しました。
「ギジギジギジギジギジギジギジギジギジギジギジギジ………」
ギジギジがだんだんと遠くなっていきます。
動揺を隠しながら何事もなかったかのように夕食を食べていても、風呂に入っていても、テレビを観ていても……頭のなかをゴマダラカミキリムシの塊が転がりながらギジギジギジギジいってる感覚が消えません。
翌朝、雑木林に行ってみました。虫籠を捜したのですが、どこにも見当たりません。誰かが持ち去った? そんなはずないでしょう。勝手にフタを開けてみんな出ていった? じゃ、虫籠はどこへ消えたのか?
私の結論としては……籠の中のゴマダラカミキリムシのリーダーが大切なことに気がついた、ということにしました。こんなかんじ……。
「俺たちはこんな小さな籠の中でギジギジいってる場合じゃない! みんな! とにかくここから出る努力をしよう!」