カリーニングラードは、ポーランドとリトアニアに挟まれたロシアの飛び地だ(AERA 2023年4月17日号より)
カリーニングラードは、ポーランドとリトアニアに挟まれたロシアの飛び地だ(AERA 2023年4月17日号より)

 ロシアはこれまでも、警告のトーンを引き上げてきた。

 プーチン氏の側近のメドベージェフ前大統領は昨年7月、2014年以来ロシアが占領しているクリミア半島が攻撃対象となったら、「終末の日が訪れる」と警告した。しかし、10月に実際にクリミア橋が破壊されても、ロシアからの報復はウクライナの電力インフラなどへのミサイル攻撃にとどまった。

■核の脅しははったり

 昨年9月、ロシアがウクライナ東部と南部の4州のロシアへの編入を発表した際、プーチン氏は「我が国の領土保全が脅かされた場合、使用可能なすべての兵器を必ず使う。これは、はったりではない」と述べた。しかし、実際にはその後もウクライナは4州の全面奪還を目指し、戦闘の手を緩めていない。

 ロシアの核による脅しは、まさにはったりに過ぎないと見透かされてしまっているのだ。

 そうした状況を変えて、もう一度現実味を増そうというのが、今回のプーチン氏の決定の大きな理由だろう。

 ただ、ベラルーシへの核配備は、ロシアのこれまでの基本方針には反している。

 例えば、今回の発表のわずか4日前、プーチン氏と中国の習近平国家主席が署名した中ロ共同声明には、以下のような文言が盛り込まれている。

「すべての核保有国は、核兵器を自国領土外に配備せず、国外に配備されているすべての核兵器を撤去すべきだ」

 この点について、ロシア外務省のザハロワ報道官は、ロシアとベラルーシは連合国家なのだから、国外への核配備にはあたらないと説明した。

 これほどひどい詭弁(きべん)もちょっとないだろう。確かに両国は1999年12月に連合国家創設についての条約を結び、共通の憲法、議会、通貨を持つことを将来の目標に掲げた。だが、実際には国家統合に向けた具体的な動きは何一つ始まっていない。連合国家の実態は皆無だ。

 これが人間社会であれば、こんな屁理屈で自分の勝手な振る舞いを正当化するようなことをしていたら、周囲から次第に人が離れていくだろう。

 詭弁を弄してまで脅しのレベルを上げるのも、現在のウクライナの戦況がプーチン氏にとって思わしくないという現実があるからにほかならない。(朝日新聞論説委員、元モスクワ支局長・駒木明義)

AERA 2023年4月17日号より抜粋

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