腸は、小腸と大腸に分けられます。

 小腸の長さは、成人で約7~8mと非常に長く、その内壁は、「絨毛」と呼ばれる、毛細血管やリンパ管を内包する無数のヒダで覆われています。それによって、小腸の内壁の面積が最大化され、消化物から栄養素をしっかりと吸収することができるのです。

 一方、大腸の役割は排泄物を作ることです。

 小腸から送られてきた消化物は、ぜん動運動(腸管が順次くびれることによって、腸の内容物を前へ押し出していく運動)によって大腸の中を運ばれていきますが、その間に水分が搾り取られ、便が形作られていきます。大腸の内壁には絨毛はなく、粘膜に覆われています。
 

人間の心身の健康は腸から生まれる

 人間の健康は、腸から生まれると言ってもいいでしょう。腸には、人間の免疫力の約70%が集約されているからです。

 免疫とは、体にとって有害なものを排除する自己防御システムのことです。小腸の絨毛の間にある「パイエル板」には、ウイルスや細菌を捕獲・撃退する免疫細胞が集まっており、腸内細菌と免疫細胞は互いに影響を与え合っています。

 さらに、やる気や幸福感も、健康な腸から生まれます。

 小腸では、やる気を生み出す神経伝達物質「ドーパミン」を合成するビタミンが作られており、精神を安定させる働きがあり、「幸せホルモン」と呼ばれる神経伝達物質「セロトニン」も、約90%は小腸で作られているからです。

 セロトニンが不足すると、ストレスを感じやすくなったり、うつっぽくなったりしますし、セロトニンの生成量が減ると、睡眠を促すホルモン「メラトニン」の量も減るため、睡眠の質も低下します。

 私がこれまで診てきた患者さんの中には、腸を整えることで、体質だけでなく性格まで変わったという方がたくさんいらっしゃいます。腸が元気だと、病気になりにくく、ストレスを感じにくく、幸福感を覚えやすく、やる気が生まれやすい体になることができるわけです。

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小林弘幸

小林弘幸

小林弘幸(こばやし・ひろゆき) 順天堂大学医学部教授。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。1987年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科などの勤務を経て順天堂大学小児科講師、助教授を歴任。腸と自律神経研究の第一人者。『医者が考案した「長生きみそ汁」』など著書多数。テレビなどメディア出演も多数。

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