AERA 2024年9月30日号より

「泥棒!」と大声で

 事件は数カ月後に起きた。息子を保育園に送り届け、職場に向かおうとしていたシズカさんは、公園で男女6人に取り囲まれた。待ち伏せしていた、古参の役員3人とその夫たちだった。

「6人が通せんぼして、『契約書にサインしろ』と迫ってきた」

 文書には「前年度会長の不正会計でPTAが廃止になった」と書かれていた。「不正を認め、PTAを復活させます」という内容の文書もあった。

「拒否して逃げようとしたんですが、『契約書を書くまでは帰さない』『泥棒!』と、近所に聞こえる大声で罵声を浴びせてきたんです」

 シズカさんは警察に通報。警察沙汰になったことは園にも報告し、この事件をきっかけにPTAは解散した。

 嫌がらせはその後も続いた。中心人物は地元で工務店を営んでいた。長年地元に暮らし、「地元愛が強い人たちだった」。子どもへの嫌がらせは阻止したが、シズカさんは「村八分にされ」、他の母親たちから無視されるようになってしまった。

 だが、路地裏などで呼び止められ、「PTAをつぶしてくれてありがとう」と、感謝されることもあるという。

「私と話していると標的になってしまうので、見つからないように話しかけてくださる。PTAが理不尽だと思っていても、それを口に出せない人が大勢いると感じます」

「免除の儀式」が横行

 会員確保のため、保護者に精神的苦痛を強いるケースもある。

 京都府に暮らす中井亮さんは、長男の入学時にPTAから文書が配られた。そこには「役員の免除は基本的になし」と書かれていた。例外をつくることはできる。他の保護者たちの前で、「役員を引き受けられない」理由を説明するのなら──。中井さんの学校では、いわゆる「免除の儀式」が行われていた。

シングルマザーで掛け持ちで仕事があるとか、寝たきりの親を介護しているとか、上の子に障害があり付き添いが必要とか、個人的な事情を全員の前で説明しなければならない。いたたまれないですよ」(中井さん)

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少人数で活動するPTAは増えてきている