水につかった仮設住宅。駐車していた車の屋根近くまで水が達している=2024年9月21日、石川県輪島市宅田町

2次避難から戻った高齢者の新たな危機

 水害以前に、地域の高齢者には別の危機が進行していたーー。そう指摘するのは、被災地で訪問看護師として活動する中村悦子さん(64)だ。中村さんは、自身も被災しながら当初は福祉避難所で高齢者や障害者の支援にあたり、4月からは新たにできた訪問看護ステーションで活動してきた。

 上下水道の断水が長引き、5月までは中村さんが担当する要介護の高齢者の多くが地域の外での避難を強いられていた。今回の能登大雨は、断水の解消とともに、2次避難先から高齢者や介護を必要とする人が故郷に戻ってきたタイミングだった。じつは、水害が起こらなかったとしても、新たな体調不良に陥るケースが目立っていたと中村さんは話す。

「最初は自立できていた人が、せっかく輪島に戻ってきたのに避難生活を経て要介護3に。今は仮設住宅で1人には置けない状況にまで状態が悪化していて。認知機能の低下が著しく心配な方が何人もいます。避難生活の長期化と環境の頻繁な変更により、高齢者の心的負担が増したことも影響しているでしょう」

 さらに、県外への人口流出に伴う公共交通機関の減少により「買い物難民」の問題が顕在化。高齢者の外出機会が著しく減少しており、これが体重減少と低栄養の問題を加速させていると中村さんは危機感を募らせる。

「家に籠っているお年寄りは、軒並み体重が減っているんです。一番差が大きい人で去年12月に88キロあったのが、今は71キロになっています」

 特に仮設住宅に戻ってきた高齢者の中には、調理器具の変更などにまごつくうち、食事を用意する意欲を失ってしまった人もいるという。

「仮設住宅に入って3カ月以上経っても、炊飯器を使っていない人さえたくさんいるんです。ここのところ、そうした方への栄養指導が目下の課題になっていたんです」(中村)

複合災害がもたらす深刻な影響

 悩ましいのは、今回の豪雨は、地震からの復興過程で細りつつあった地域コミュニティにさらなる打撃を与えたことだ。

 前出の宮腰さんは、仮設住宅での暮らしを、こう振り返る。

「今回水に浸かって、行き先もわからず呆然としていた。巡回していたおまわりさんが見つけてくれんかったら、避難先までたどり着けんかったよ。仮設への入居は、地区ごとだといっても、顔見知りがポツポツおるぐらいや。一部の人は週にいっぺん体操で集まっとるけど、仮設暮らしで地域住人同士の助け合いみたいなもんは、特にあるわけじゃないね」

 新たなコミュニティ形成も半ばなところで、水没により住まいの問題が再浮上。孤立化の懸念も一層深まる。

 中村さんは、孤立し移動もままならない高齢者たちへの「複合災害」の影響を最小限に抑えるため、欠かせない支援策を3つ挙げる。

  • 早期の住まい確保
  • 利用しやすい公共交通機関の充実
  • ストレスや認知機能低下に対応する専門的な心理サポート

 その上で、「地域の保健室」のような今後を話し合うコミュニティの構築が大事になってくるとみている。

「再び住む所を失い、『またあの避難生活に戻るのか……』と。そう考え始めたら、もう悲嘆だらけだと思うんです。この状況が誰かを死の淵に追いやらないか、正直ヒヤヒヤしてます」

 地震発生時から被災者に併走してきた中村さんは、早急な対策を呼びかける。

(ジャーナリスト 古川雅子)

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