新潟県農業総合研究所作物研究センターの岩津雅和・育種科長は、「それはありません」と言う。
「新潟県にとって、コシヒカリは大切な品種。昨年からコシヒカリに高温耐性をつける品種開発や育成をスタートしています。将来的には新之助と、ツートップのようにできればいいと思っています」(岩津さん)
地球温暖化の進行に備え、同センターが交配で新之助の原型を作ったのは2003年。その子孫を温室内で育て、高温耐性を確認するとともに、よい稲を選ぶ、「選抜」作業を繰り返した。
選抜には暑さや寒さへの耐性、倒れにくさ、収量など、さまざまな基準があるが、新之助の場合、「食味」が重視された。
「家庭で食べていただくブランド米として、選抜では他の要素よりも『味』を最重要視しました。実際に炊いて食べて、評価の高いものを育てていった。さらに、高温耐性も備えた」(同)
新之助とコシヒカリ、うまいのは?
新之助はコシヒカリとは異なる“おいしさ”を追求した米だという。
米の食味の分類をわかりやすく説明すると、粘り(もっちり/あっさり)と、硬さ(硬い/やわらかい)で表される。
「コシヒカリはやわらかめで粘りがありますが、新之助はしっかりめで粘りがある感じです」と、先の浅見さんは説明する。
浅見さんは「五ツ星お米マイスター」「ごはんソムリエ」の資格を持つ。
特に日本米穀商連合会が認定するお米マイスターは、米の専門職経験がある人のみが受験できる資格で、浅見さんは最上位の「五ツ星」を持つ。米のコンテストの審査員を務めたり、炊飯器の開発に協力したりもする。
「お客さんにコシヒカリと新之助、両方を食べてもらうと、新之助がおいしいという人と、コシヒカリのほうがいいという人、両方がいます。『おいしい』の基準は人それぞれです」(浅見さん、以下同)
同じ産地で異なる銘柄の米を栽培する場合、食味を変えて、すみわけを図るのが一般的だという。
「極端な例が北海道の2大ブランド『ゆめぴりか』と『ななつぼし』です。ゆめぴりかはやわらかくてもちもちしているけれど、ななつぼしはあまり粘りがなくて、しっかりしている」
高温耐性品種の躍進
浅見さんは積極的に新品種をチェックし、気にいった米を仕入れているが、新しいブランド米の多くが高温耐性品種だという。