現代日本に生きる女性たちは、いま、何を考え、感じ、何と向き合っているのか――。インベカヲリ☆さんが出会った女性たちの近況とホンネを綴ります。
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一歩間違えたら私も
文学研究者であり、1児の母でもある理恵さん(30代中盤/仮名)は、浮かない顔をしていた。
「やっぱりメンタルの調子が悪いと、破壊的な気持ちになっちゃったりするんですよね。『京都アニメーション放火殺人事件』を起こした青葉真司被告(一審・死刑判決)のことも、自分のことみたいに思ってしまって。一歩間違えたら、自分もそういうことをやっているんじゃないかって」
いきなりの被告への共感に、私は首をかしげた。
理恵さんは、主婦業をこなしながら、大学院の博士課程で研究奨励費をもらい研究者をしている身だ。職を失い、派遣労働を転々とし、恨みを一方的に募らせて放火、36人の命を奪った青葉被告とはだいぶ違う。どのあたりに自分を重ねるのか聞いてみると、理恵さんは、ウ~ンと考えてから言った。
「情動は、理性に対してどうすることもできない。気分とか感情というものがあって、いつなんどき出てきてしまうかわからないところは似てるなと思います」
「どう頑張っても無理だ」
理恵さんには、中学生のころからずっと気持ちの振れ幅があるという。
調子がいいときは、頭もはっきりしていてやる気に満ちているけれど、メンタルが悪いと些細なことでも落ち込み、前日から睡眠が取れず不調のまま目が覚める。カウンセラーに相談したり、夫に話したりして夕方以降に持ち直すこともあるが、悪いニュースを見たり忙しすぎたりする日々が続くと、破壊衝動や無力感が出てきて、「どう頑張っても無理だ」という気持ちになるという。
具体的には、どんなことを無理だと感じるのだろう?
「もっと頑張りたいのに語学力が足りないとか。何年かけてもあまり進んでいないこととか。周りにいる優秀な人と比べて、なんで自分はこんなふうにできないんだろうとか。もっと頑張らなきゃいけないのにできていないみたいな」
意外にも普通のことを言う。
「なんていうか、正社員として働いたことがないし、月から金まで働いている人とは全然違うので、そういう人と比べちゃうと、自分はダメだなぁとか思う。いろんなものと比べてしまうんです」
とはいえ、仕事と育児を両立させるのはすごいことだ。なぜそこまで自分を卑下するのか、私にはわからなかった。