老人ホームでレクリエーションをおこなう鈴木彩夏さん(朝日新書『8がけ社会』より) (c)朝日新聞社
老人ホームでレクリエーションをおこなう鈴木彩夏さん(朝日新書『8がけ社会』より) (c)朝日新聞社
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 様々な業界で「人手が足りない」と悲鳴が上がっている。2040年に現役世代が今の2割以上減少する「8がけ社会」がやってくると予測される今、解決する手はあるのか。労働力が急減している各地の実態に迫った「朝日新聞」大人気連載を書籍化した『8がけ社会』(朝日新書)より、一部抜粋・再編集して紹介する。

有償ボランティアの助っ人「スケッター」

「8がけ社会」が訪れる2040年、主役はいまの20〜30代の若者世代だ。

 働き手が減る未来に当事者として向き合おうとする視線の先にあるのは何か。

 すでに深刻な人手不足が顕在化している福祉の現場に飛び込んだり、ビジネスの視点で社会問題を解決しようとしたりと、志を持って動き出している若者たちを追った。

*  *  *
 2023年12月、川崎市宮前区の有料老人ホーム「グッドタイムホーム・鷺沼」に歌声が響いた。ピアノ講師の森明乃さん(71)が、昭和歌謡でお年寄り数十人を楽しませていた。事務室では、病院職員の鈴木彩夏さん(30)がパソコンに向かい、クリスマスの催しを紹介する画像を作成し、文章をつけてブログで発信していた。

 2人ともこの施設の職員ではない。介護現場と外部人材をつなぐマッチングサービスを通じて施設に通う「有償ボランティアの助っ人=スケッター」だ。

 2人が特技を生かして活動する間、職員に余裕が生まれる。「入居者の顔と名前が一致することが必須なケアに専念できる。外の目が入ることで接遇も良くなる」と吉田まり絵施設長は喜ぶ。

 多種多様な介護の仕事から、無資格・未経験者でもできる仕事を切り出す。それを「お手伝いカタログ」に整理し、ボランティア希望者に橋渡しする。事業者は時給換算で1000〜1500円ほどの謝礼をボランティアに払う。

 この仕組みを立ち上げた、プラスロボCEO(最高経営責任者)の鈴木亮平さん(31)が掲げるキャッチフレーズは「日本一おもい問題に、日本一かるい答えを」だ。

難題だからこそ取り組む

 人材不足は、介護業界内だけで解決するには重すぎる。発想を変え、業界外にいる介護の関心層にアプローチし、軽い気持ちで参加できるインフラを作ればいい。

「介護の関係人口を増やし、1億総福祉人の時代をつくる」。

 そんな未来が目標だ。難題だからこそ取り組む意義があるという。「世の中はすでにかなり便利。それをもうちょっと便利にする仕事はモチベーションが湧かない」

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