江戸時代後期の1833年から1839年頃(天保4年から10年)、江戸三大飢餓のひとつともいわれている天保の大飢饉が起きました。飢饉の主な理由は、大雨による洪水や冷害による大凶作と考えられており、当時の日本の人口減少にも大きく影響したといわれています。

 岐阜県飛騨地方の寺に残されている、この時代の死亡記録を調査した研究からは、飢餓の影響により人口が10%程度減少したこと、乳児の死亡率が高く、人口の増加はゆっくりであったことなどがわかっています。

 この研究で特に注目すべきことは、女性よりも男性の死亡率の方が高かったということです。飢饉が起きる以前の1800〜1851年の間の死亡率は、男女でほぼ均等でした。

 しかし、飢餓のピークを迎えた1837年では、全体の死亡者に対して男性が占める割合は54.8%、対して女性は45.2%でした。

 このような論文は、あくまでも飢餓や疫病流行時において男女の死亡率が異なる事実を明らかにしたもので、その生物学的な理由を証明するものではありません。

 ですが、事故や災害時などでは、食べ物や飲み物が得られず、何日も飢えの状態で耐えなければならないことが想定され、そのような非常時では、基礎代謝の低さが命を救う可能性が高いと考えられています。基礎代謝が低いと生命活動を維持するために必要なエネルギーも少なくて済みますので、エネルギー補給できない状態が続いても生き延びる可能性が高くなるのかもしれません。

過酷な状況下での乳幼児の男女差

 非常時には女性の生存率が高くなる。これは、日本だけでなく、世界的にも同様の傾向が見られています。

 飢饉や疫病の流行時における人口動態を調べた研究報告は多数あるのですが、2018年に、これら過去の報告をまとめて解析した論文が発表されました。

 この論文では、過去に報告された7つの論文のデータを使って比較解析を行っています。対象となったのはアフリカ西部のリベリア(1820 - 1843年)、カリブ海のトリニダード・トバゴ(1813 - 1816年)、旧ソ連体制下時代のウクライナ(1933年)、スウェーデン(1773年)、アイスランド(1846年と1882年)、アイルランド(1845 - 1849年)の6地域で、植民地化による奴隷支配、飢饉、疫病の流行などの7つの事例における男女の生存率を比較しています。

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