我が家がアメリカから日本へ戻ってきたのは2年前の1月。コロナの自粛期間や引っ越し作業を終えた翌2月から、2歳と5歳の子どもたちを幼稚園か保育園へ入れようと考えていました。でも幼稚園からは「2月からの途中入園は難しい、来るなら4月からにしてください」という返答で、保育園の募集はそもそも前年の秋にはとっくに終了しており、転入は叶いませんでした。結局1月から3月の3カ月間元気いっぱいの子ども2人に付きっ切りで、3人目がお腹にいてしんどかったこともあって、なぜ簡単に転入できないのか? と不満を抱えていたのですが、2年間日本に暮らした今ならその理由がわかります。園のカリキュラムや人員配置は毎年4月から3月までかっちり決まり、先生も子どもたちも3月の終業・卒園を目指し全員一丸となって取り組んでいます。2月にはお別れ会の練習や進級準備なども控えており、全員が「年長さんとのお別れ寂しいね」「進級がんばろうね」ムードに染まっています。そんななかに異端の転入生がぽんと入り込んだら、そりゃあ困るでしょう。

 日本の“みんなで足並み揃えて”文化は、その大いなるシステムに一度組み込まれてしまえば快適です。3月にお店へ行けば入園・入学グッズが揃い、新生活に必要な家電はセットで買えます。4月頭には初々しくも危なっかしい新入社員があいさつ回りに来るものだ、と得意先の人は心得た顔で出迎えてくれます。街並みやテレビなど普段見ている景色も4月1日を機に一新されて、新生活の一体感を高めます。システムを管理する側も、みんなが一斉に同じ動きをするので楽でしょう。でもそのシステムの外から内側に入り込むのは、いつでも容易にできるわけではありません。まるで乗降するチャンスが一周のうちで一度だけしかない観覧車のようです。新卒一括採用をはじめとする日本の制度がもう少し柔軟になれば、外部の人間も入り込みやすく多様性が生まれるのにと、観覧車に乗りこむタイミングを逸した者としては思うのです。

AERAオンライン限定記事

著者プロフィールを見る
大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

大井美紗子の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
【フジロック独占中継も話題】Amazonプライム会員向け動画配信サービス「Prime Video」はどれくらい配信作品が充実している?最新ランキングでチェックしてみよう