2人とも芸人MCとしてはトップクラスの腕を持っている。どちらも番組を進める技術に優れているだけではなく、笑いに振り切ったときの爆発力もある。番組の性質やその場の空気に合わせて笑いの濃度を使い分けることができる。

有吉弘行が「二軍のボス」と命名

 今田と東野は似ている部分もあるが、得意分野やプレースタイルはそれぞれ微妙に異なる。音楽にたとえるなら、今田はメジャーコードで、東野はマイナーコード。『M-1グランプリ』のような華やかな場所には今田の安定感のある仕切りがぴったりだが、東野は深夜番組やマニアックなお笑い番組にもよく馴染む。

 東野は興味の幅が広く、多趣味でサブカルチャーにも精通している。ゴールデンの番組でMCを務めたり、『ワイドナショー』で時事問題を扱ったりする一方で、サブカル系のトークライブにひょこっと顔を出したり、自身のYouTubeチャンネルではマイナーな芸人や不祥事芸人をゲストに招いたりするなど、独自の動きを見せている。

 東野はかつて有吉弘行に「二軍のボス」というあだ名をつけられていた。でも、今の東野は、二軍のボスの地位は維持したままで、一軍のボスとしても揺るぎないポジションを築きつつある。

 普通のタレントであれば、出世の階段を上っていくにつれて、自分の中のサブカル的な要素を徐々に薄めていくものだ。だが、すべてをフラットに捉える東野にはメジャーとマイナーを区別する感覚がない。だからこそ、当たり前のようにどんな場所にも馴染むことができる。

 東野ほどスベリ笑いやイジる笑いが好きな人はいない。彼の非人間的にも思えるほどの容赦ないイジリは、どんなものでも面白がろうとする好奇心の裏返しでもある。

 すべてを楽しみながら、すべてのものと一定の距離を置いているようなところもある不思議な存在。一軍と二軍のボスを兼務する東野幸治は、令和最強の芸人MCである。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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