永世王位の資格を獲得し、したためた色紙を手に会見をする藤井聡太王位=2024年8月28日、神戸市北区
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 注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2024年9月16日号より。

【貴重写真】和服じゃない!スマホ片手にデニム姿の藤井聡太さん

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 将棋界の歳時記では、真夏は王位戦の季節だ。そして今年も熱い夏を制したのは、涼やかな和装の青年だった。

 藤井聡太王位(22)に渡辺明九段(40)が挑戦する王位戦七番勝負の第5局は8月27・28日、神戸市でおこなわれ、97手で藤井王位が勝利。4勝1敗1千日手でシリーズを制し、王位戦5連覇を達成。史上最年少22歳で永世王位の資格を得た。

「この5期を通して、自分自身、いろいろな経験をすることができたかなというふうに思っています」(藤井)

 歴史的な大記録を次々と更新していきながらも、藤井はいつも通りの自然体だった。

 藤井はこれまで2日制のタイトル戦番勝負に13回登場し、そのすべてを制している。王位戦では2敗以上した経験がなく、すべて第5局までで終わらせている。古参の将棋ファンはここ数年、夏の終わりをずいぶんと早く感じているかもしれない。

 今年7月、史上最年少で永世棋聖の資格を得た藤井は、8月に永世王位も取り「永世二冠」を達成。「将棋史上最強」と称えられた羽生善治九段を上回るハイペースだ。羽生は七大タイトル制の時代に覇者として長く君臨し、47歳で「永世七冠」という金字塔を打ち立てた。

 八大タイトル制の現在、藤井はもしこのまま勝ち続けていけば、2030年度、28歳のときに「永世八冠」を達成する可能性がある。もっとも高いハードルは、通算10期が要求される永世王将だ。その点を尋ねられた藤井は苦笑してこう答えた。

「永世称号の条件というのをあまり、ちゃんと把握していなくて。王将戦が10期必要だというのもいま初めて知ったんですけれど」

 自身の記録に興味のない、涼やかな藤井。おそらくは何歳になっても、盤上の真理を求め続けているのだろう。(ライター・松本博文)

AERA 2024年9月16日号

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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