日色さん自身、かつて築20年ほど(当時)のマンションを購入し、住居兼オフィスとしてリノベーションした。写真はオフィス部分で、天井を取り除いたことで天井高が約10センチ高くなり、現れたコンクリートを白く塗装、二室の境の下がり壁にあった換気扇ダクトも金属で巻いて白く塗装している=日色さん提供

 ただ、近年状況が変わりつつある。04年以降、既存住宅流通比率はジワジワと上がり、22年には過去最高の42・3%に達した。

 首都圏のマンションでは2016年に中古マンション成約戸数が新築分譲マンション供給戸数を上回り、近年は新築の供給減もあってその差が拡大している。

 AIを活用した中古マンションの買い取りや再販を手掛ける不動産テックベンチャー・すむたすの角高広代表は「新築神話は変わりつつある」として、こう解説する。

 「中古マンションの平均価格は近年上がり続けていますが、タワマンや都心部の築浅・駅近物件など高価格帯が大きく上昇している影響が強く、郊外のマンションは極端な上がり方はしていません。新築の価格上昇が続く中、一般的な家庭には中古が有力な選択肢になってきています」

 同時に増えているのがリノベーション物件だ。定義は明確ではないものの、設備の入れ替えや壁紙の張り替えなど比較的小規模な改修をリフォーム、間取りの変更などを伴う大規模な改修をリノベーションと呼ぶことが多い。角さんは続ける。

「前の家主が長く住んでいた中古物件に、全く手を入れず暮らすのは非現実的。快適に生活できるよう改修するのが、リノベーションやリフォームです。新築と中古の価格差が大きくなっているので、リノベにある程度お金をかけても、値ごろ感があります」

 リノベーション物件には主に、業者が中古住宅を購入し、改修後に再販するものと、購入した居住者自身が設計・建築事務所などに依頼するものがある。多いのは前者で、矢野経済研究所の推計では、2017年に3万戸だった中古住宅買取再販市場(マンションと戸建ての合計)が2022年には成約戸数ベースで4万1000戸に達したとみられるという。

 一級建築士で東洋大学教授も務める、建築設計事務所「タラオ・ヒイロ・アーキテクツ」の日色真帆さんはリノベーションについてこう話す。

「1981年施行の新耐震基準を満たしたマンションなら、きちんと管理されていれば100年持ちます。日本にはもう住宅の戸数は十分にあり、これからは今あるものを改修して住み継ぐのが普通になる。私自身リノベを手掛けますが、住む人の意向やその方の20年後・30年後の暮らしを想像しながら、既存の建物を守りつつ新しい手も加えて、将来に手渡す本当におもしろい作業です。建築学を学ぶ学生も、今や当たり前にリノベについて学んでいます」

 そして、住む側にとっても魅力は大きい。

「自分の生活を想像しながらあの手この手で家をつくっていける。スケジュールに余裕をもって臨めば、人生の中でかなり楽しい活動になると思います」(日色さん)

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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