高騰する不動産市場を背景にリノベーションに注目が集まる(写真はイメージ/gettyimages)
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 新築マンションの高騰、供給戸数の減少に伴い、注目が集まる中古マンション。割安で自分好みに間取りを変更できるリノベーションを選ぶ人も。日本で浸透していた「新築神話」は崩れつつあるようだ。

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 40代の会社員女性は2年ほど前、神奈川県に築25年、約85平方メートルの中古マンションを3500万円ほどで購入、約1200万円かけてリノベーションした。同エリアの新築マンションは、より狭い70平方メートルクラスで6千万円台の価格がついている。

「80平方メートル超は新築ではほぼありませんし、価格的にも手が出ません。相談していた不動産会社から『間取りはいくらでも変えられるし、中身はきれいにできる。広さ・立地が条件に合うなら買い』と言われ、初めてリノベーションを意識しました」

 物件を購入してから工事が始まるまでに、設計会社との打ち合わせは4カ月、10回に及んだ。打ち合せと並行し、キッチンやトイレなど設備のショールームにも足を運ぶ。間取りに始まり、設備や建具など決めることは無限にあった。

 壁紙の選択肢は「白」だけで数百種類。電気のスイッチを床から何センチの高さにつけるか、床の見切り材の素材をどうするか、など考えたこともない事柄もいくつも出てきた。

「これまでは完成した家に当たり前に住んでいたから、こんなにも選択肢があるのか、と戸惑いました。やっと思い通りのプランができても今度は予算オーバーで、一度決めたものを削っていく。たいへんな数カ月でした」

 それでも、完成後の満足感はそんな苦労を吹き飛ばした。「自分が家に求めることを明確化し、それを追求することができた。新築よりもだいぶ安く、ずっと快適な暮らしになったと思っています」

 「新築神話」という言葉があるように、日本の住宅市場は圧倒的に新築が好まれる傾向があった。不動産流通経営協会の推計によると、新築住宅着工数と中古住宅流通量の合計に占める中古割合(既存住宅流通比率)は、同協会が統計を開始した2004年で26.5%。米英では8割強、フランスでは7割程度が中古住宅とされるなか、日本の新築比率は際立って高かった。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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新築神話に異変