伴侶を得て今は「ふつう」に暮らしているけれども、19歳まで、「所有のない社会」をめざす「カルトの村」で生活していた。35歳になり、子どもの頃の記憶を巻き戻して再生した「実録コミックエッセイ」だ。
著者の両親は、大学時代に理想を求めて村に入り、村で出会って結婚。著者に続き、妹を産んだ。「なんかおかしいぞ」。著者が村を異質と感じだすのは、地元の小学校に通い始めてからだ。村の子どもたちは集団で生活し、両親と一緒に過ごせるのは年に数回しかない。「まだ帰りたくない!!」と泣く場面はジンとくる。基本的にスパルタ教育で、体罰も日常的。お小遣いもない。すべての物が「共有」で、祖母からの贈り物でさえも没収される。
ひどい所に思えるが、有機野菜がふんだんにあり卵が食べ放題だったことや、村の子で一緒に「探検」などの外遊びをしたことなど、楽しかった時間も綴られる。理念のよしあしではなく、子どもの目に「理想郷」がどう映っていたかを知る貴重なドキュメンタリーだ。なによりユーモラスなタッチがいい。
※週刊朝日 2016年4月15日号