「今の時代、老後には2000万円の蓄えが必要らしい」――そんな話を聞くにつけ、老後のお金に困らない富裕層をうらやましく思ったことはないでしょうか? では、もしも超高級老人ホームに入居できれば、何不自由ないユートピアのような暮らしが叶うのでしょうか?
そんな「超高級老人ホーム」にスポットを当てた書籍『ルポ 超高級老人ホーム』。著者は元『週刊文春』記者の甚野博則氏です。入居金だけで数千万円から数億円、さらには月額数十万円という費用が必要となる超高級老人ホームについて、著者自身で全国の施設を訪ね歩き、多くの入居者やスタッフにインタビュー。その実態に迫った渾身のルポルタージュです。
最初に登場するのは、全国屈指の超高級老人ホームとして名を馳せる東京・世田谷区の「サクラビア成城」です。最も高い部屋で入居一時金が4億円超というだけあり、こちらでは「瓶の蓋を開けてほしい」「高い所のものに手が届かないから取ってほしい」といった雑用をするための専門部署があるというから、庶民としては「へぇー」と驚くばかり。ライブラリーやホール、レストラン、美容室なども完備しており、高級ホテルのサービス付きアパートメントと同じ感覚で暮らせます。さらに、看護師だけでなく医師も24時間365日常駐しているというから安心感は絶大。財界の大物などがこぞって入居しているというのもうなずけます。「まさに人生の成功者が住む丘の上の豪華客船」(同書より)という例えも、あながち大げさではなさそうです。
しかし、次章以降を読むと、必ずしもキラキラとした面ばかりではないことが明かされていきます。たとえば第二章では、入居者で組織された理事会が幅を利かせ、彼らが支配的な地位を占める老人ホームを紹介。もし自分がこのコミュニティに加わることになったらと考えると、尻込みしてしまう人も多いかもしれません。
第四章では現役スタッフから内情を聞きつけた著者が、兵庫県にある高級老人ホームへ潜入取材を敢行します。「目につくところだけ豪華だが、実際は腐ったようなお茶も平気で出す」という噂の真偽をチェック。見学という体(てい)で設備や入居者の様子を観察します。
そうしてさまざまな施設を調査した著者は、最後に「ただ型通りの"高級"を実現しているだけの超高級老人ホームは、まるで施設側が作り上げた劇場のよう」(同書より)だとし、「一見優雅に見える暮らしでも、複雑な人間関係や老いとの闘いから逃れることはできず、絶え間ない葛藤が続く場所が超高級老人ホーム」だと記します。
最後まで読んで、「"高級"とは一体何なのだろう?」「どんな老後なら幸せなのだろう?」と思案してしまう人もいるのではないでしょうか。興味本位で手に取りながらも、自身の老後について考えさせられた一冊です。
[文・鷺ノ宮やよい]