新学期が始まる。今年、学校健診で「想定外の診療」による炎上が相次いだ(写真はイメージ/gettyimages)
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 夏休みが終わり、新学期が始まる。今年度、子どもたちの「学校健診」で、複数の学校で「下腹部を触られた」という声が、児童や保護者から上がった。適切な健診と、望ましくない健診の境目はどこにあるのか。

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男性医師が下腹部を視診

 今年6月、大きく取り上げられたのは、群馬県みなかみ町のある小学校での健診。学校医の70代の男性医師は児童の下着のなかをのぞき、下腹部を視診した。児童がそれを訴えて、問題が表面化すると、医師は「専門家として二次性徴をみるためだった」と説明した。

 日本医師会常任理事の渡辺弘司医師は、6月19日の定例会見で、こう述べた。

「医学的に診察を行ったということに対する妥当性はあると考えます。しかし、一般的な学校健康診断として児童生徒全例に二次性徴の診察を実施するということは想定されていない」

 つまり、一般的な学校健診の項目にない「診察」だった。

日本医師会の渡辺弘司常任理事=東京都内、米倉昭仁撮影

「想定されていない診察」の問題

 福岡県北九州市の小学校でも同月、複数の児童が60代の男性医師から「下腹部を触られた」などと訴えた。同市教育委員会の聞き取りに対して学校医は、「腸音を聴くために下腹部にも聴診器をあてた。性的な意図があってやったわけではない」と説明した。しかし、健診項目は肺や心臓音の聴診のみで、腸音は含まれていない。これも想定されていない「診察」だった。

 いずれのケースについても、「事前に学校は保護者に説明する必要があったと思います」と、渡辺理事は言う。

「プライベートゾーン」と性教育

 専門家の見方はもっとシビアだ。公立小学校の現役教員で、日本学級経営学会の山田洋一理事は、こう指摘する。

「最近、小学校では子どもの発達段階に応じて性教育が行われています。初歩的なカリキュラムのなかで『プライベートゾーンを人に見せたり、触らせたりしてはいけない。触ろうとする人がいたら、きちんと断る』と、指導をしているはず。ところが、望まない部分を見られる、触られるという行為が保護者への説明なしに学校健診で行われた。学校の指導と矛盾していますし、人権問題だと思います」

学校側の立場は

 学校の説明責任について、文部科学省は今年1月、「児童生徒等のプライバシーや心情に配慮した健康診断実施のための環境整備について」のなかで、こう記した。

「(学校は)健康診断の意義や重要性、検査・診察の内容や方法(服装を含む)、児童生徒等のプライバシーや心情に配慮した対応などについて、学校医と相談し共通認識を持ったうえで、児童生徒等および保護者の理解が得られるよう、事前に丁寧に説明を行う」

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学校側は医師に「来ていただいた」