日本医師会は学校健診におけるプライバシー保護について文部科学省と協議を重ねてきた=東京都内、米倉昭仁撮影

着衣ゆえに見逃しうることとは

①脊柱および胸郭の疾病および異常の有無、②皮膚疾患の有無、③心臓の疾病および異常の有無――である。

 脊柱については、衣類を着けた状態で検査をした場合は、側弯症の診断率が低下することが報告されている。

 皮膚疾患は見えない場所の診断はできない。また、あざやけがなどがあれば、虐待の可能性の発見にもつながる。しかし、着衣では見逃されてしまうおそれがある。

「殴られた痕とか、医師がみれば、ある程度推測できる虐待の傷があります」

 心音の聴取は、不整脈や心筋症のような後天性心疾患の診断に有効である。心房中隔欠損症が学校健診でみつかる例が複数あるという。

「小児循環器が専門の私からすると、皮膚と聴診器の間に1ミリでも空気の層があったら、間違いなく聴診のレベルは下がります」

ケープをつけるなどの配慮

 学校健診はスクリーニング検査だ。だが、性別に関係なく、脱衣で検査するのであれば、その有用性を学校が保護者に説明することは重要だし、実施方法についても医師は学校と協議して子どもたちに十分に配慮することが求められるという。

「私の場合、他の子どもたちから見えないスペースで服を脱いでもらい、水泳の授業で使うタオル製のケープを身に着けて健診の場所に入ってもらうようにしました」

 今年5月、神奈川県横浜市のとある小学校の健診が上半身脱衣で行われたことがSNSで批判され、新聞やテレビで報道された。

 同市教育委員会によると、健診は児童が保健室に1人ずつ入るかたちで行われた。室内は脱衣、診察、着衣の場所がパーティションで区切られ、プライバシーには十分配慮されていた。上半身脱衣で健診を行うことも事前に「ほけんだより」で保護者に周知されていた。だが、それでも批判は起こった。

医師が保護者に知ってもらいたいこと

 学校医が保護者からのクレームを恐れて、脱衣が必要な健診項目でも着衣で行えば、疾病や異常の発見率は下がる、と渡辺理事は危惧している。

「結果的にその影響を一番受けるのは子どもたちです」

 健診と子どもへの配慮をどう両立させるべきか。現在、日本医師会と文科省は協議して、学校医の業務について配慮すべき内容をまとめた説明資料の作成を進めている。

「来年度の学校健診に間に合うようにしたいと考えています」

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

暮らしとモノ班 for promotion
Amazon スマイルSALEが29日9時からスタート!よりお得にするためのポイントやおすすめ目玉商品を紹介♪