受験競争のヒエラルキーの最上位に位置する東大に合格するには開成、灘、筑駒など難関中高一貫校への入学だけでは十分でない。「サピックス小学部から鉄緑会へ」という塾のキャリアパスこそが王道なのだ。実際、東大の中でも最難関の医学部では鉄緑会出身者が6割以上を占める。
本書を読んで驚いたのはサピックスに通い、中学受験を終えた小学生が中学入学前の春休みに鉄緑会に入塾し、東大受験への道を歩み始める光景だ。そこには中高一貫校ならではの牧歌的な雰囲気は全くない。
著者は学校と塾は両輪の存在と指摘しながらも、塾の肥大化に警鐘を鳴らす。塾は効率性を追求し、生徒は与えられたものに疑いを持たず、処理能力と忍耐力だけが鍛えられていく姿は異様だ。
正解を導き出すことに長けた受験エリートたちだが、人の生き方に正解はない。「偏差値」というわかりやすい目標がない世界をどう生きるのか。「社会人になった後はぱっとしない人が多い」との仲間内の評価は印象的だ。
※週刊朝日 2016年4月1日号