結婚して20年。今回の手術のために初めて指輪を外した薬指です。指のサイズも変わり、抜くのに苦労しました。2日経ってもまだくっきりと跡が残っています。(撮影/江利川ちひろ)
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「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

【写真】私の入院が足の不自由な息子の自立のチャンスに 障害児を育てる親が入院。そのとき家族は?

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 8月下旬になりました。このコラムが掲載されるのは8月27日ですが、実は原稿を書いている今日はまだ8月中旬で、私は明日手術を受けます。

 このコラムでも何度か私が入院予定であることを書いてきましたが、医療的ケアが必要な18歳の長女は、無事に大学病院にレスパイト入院(病院や施設などが、家庭の事情や家族の休息を目的に一時的に介護を担うこと)に行き、私も入院することができました。長女のケアも自分の手術もあとは病院におまかせすれば良いのですが、我が家は双子の次女が受験生のため、現在の心配事は次女のことばかりです。今回は、障害のある子どもを育てる母親が入院する際の家族のようすを書いてみようと思います。

きょうだい児の環境を強みに

 私が入院する直前に、長女が大学病院に入院しました。病院までは高速道路を使っても1時間ほどかかります。ちょうど関東に台風が接近した日だったのと、私の体調が万全ではなかったため、夫も一緒に行ってくれました。今回は少し長めの入院なので、人工呼吸器やアンビューなどの医療機器の他に、おむつが6パック、そして長女が何よりも必要とするDVDプレーヤー(予備も含め2台)、DVDディスク10枚とかなりの荷物になったため、夫がいてくれて助かりました。

 この大学病院は毎月お世話になっている場所なので、長女はまったく嫌がることなく、自宅と同じように自己主張しながら快適そうに過ごしていて安心しました。重心児(重症心身障害児)病棟はスタッフが本当に温かく、家族に寄り添ってくれます。私の入院中に長女のことを何も心配しなくても良い場所があることをありがたく思いました。きっと長女はすでに私を忘れ、大好きなDVD三昧の毎日を送っているのだと思います。寂しいのは本人ではなく家族かもしれませんね。

 我が家には、長女の他に双子の次女(高3)と高2の息子がいます。次女は大学入試の出願まであと2週間となりました。書類の調整が必要な大切な時期に私が自宅にいられないことを、申し訳なく思っています。

 現在の大学入試は本当に独特で複雑です。次女はまず総合型選抜(旧AO入試)を受験するのですが、この内容はいわゆる英語や数学など学校の成績よりも、「今まで積み重ねてきた何か」と「プレゼン力」が問われるようです。次女は医療系の学部を志望しています。我が家に医療的ケアが必要な長女がいることや、次女自身も極低出生体重児として生まれてきたことなど、長年きょうだい児として複雑な思いを抱えてきましたが、この受験では我が家の環境が強みとなるようです。志望理由書の完成には立ち会えませんでしたが、次女を信じて応援しようと思います。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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