近鉄奈良駅を出発する上皇ご夫妻=5月16日、奈良市
近鉄奈良駅を出発する上皇ご夫妻=5月16日、奈良市

 それでも上皇さまは猪さんに、「お父さまと2代にわたり案内をしてくれて、ありがとう」と言葉をかけられたという。そして、学習院高等科時代に馬術部主将を務め、定期戦に出場したこともある上皇さまは、当時をなつかしく思い出されたのか、「馬が大変よく訓練されていますね」と口にしたという。
 

都内では車はゆっくり

 おふたりは15日、皇室ゆかりの寺である尼門跡寺院、京都市の大聖寺を訪れた。ここには、明治天皇の妃であった昭憲皇太后の「大礼服」が保管されている。そして17日には、奈良県の尼門跡寺院である「中宮寺」を訪問。一昨年に修繕を終えた本堂で拝礼をした。

 おふたりは、大礼服の修復や中宮寺の保存や修復を支援してきた。修復された文化財などを実際に目にして、「大変なお仕事をなさいました」と関係者をねぎらったという。

 美智子さまはかつて、上皇さまの同級生である明石元紹さんに、「皇室の古式馬術打毬といった伝統ある文化を伝えてゆきたい」と話していた。

「おふたりは伝統と文化を後世につなぐ、つなぎ手としてできることをなさってきた。今回の私的旅行の足跡ひとつ見ても、おふたりの見識と教養の深さをうかがい知ることができましょう」(前出の関係者)

 京都と奈良の各地を、5日間かけて回られた上皇ご夫妻。前出の阿部さんは、都内でおふたりが外出する光景を何度も見ている。カメラのシャッターを切ることも多いため、車の速度の変化にはすぐに気づく。今回の旅行では、ご夫妻を乗せた車のスピードがいつもより速い印象を受けたと話す。

「都内ではゆっくり走って、奉迎の人びとに会釈をしたり、笑顔でお応えになったりしています。しかし今回は、長距離の移動を伴う旅行。お体の負担を考慮してのことかもしれません」と想像する。

 上皇さまは年末には90歳の、美智子さまは秋に89歳の誕生日を迎える。

 新型コロナへの制限が緩和され、おふたりもマスクをせずに外出ができるようになった今、思い出の地を訪ねるなど、穏やかな時間を過ごしてほしい。

(AERA dot.編集部・永井貴子)