その後2013年11月には、帰属が未確認として問題視されていた寺院周辺の土地について、国際司法裁判所がカンボジアに帰属するとの見解を表明。交戦状態が終わっていたこの年の夏の休暇中に、私は念願の「天空の寺院」と呼ばれる遺跡そのものへの訪問を果たすことができました。
この例が示すように、法規的には解決していると解釈できることであっても、当該国の国民の民意が、教育によって、その時の社会の状況によって、また国内政治や外交の変化によって、思いもかけぬ方向へ進むことがあるのは、今もこの先も、歴史を政治的に利用する人々がいる以上は避けられないでしょう。
そのため、このような案件を国際的な条約の下で登録しようとするならば、あらかじめ予想できる歴史解釈の問題については、当該国の間でとことんまで議論研究を重ね、統一した見解に至ってから申請してほしいと願わずにいられません。そうでないと、登録されてから長い間、政治的な論争の種であり続ける危険があり、それでは本来の条約の目的が達成されるどころか、反対の効果を生んでしまうからです。
ICSCの技術的勧告は、記憶の場に関する解釈の枠組みを作ることを強く推奨しています。歴史的な出来事を解釈する事業に携わる責任者は、出来事に関心を持つグループが、たとえ相違点や対立点があっても、共通の体験と目標を打ち立てることを目標に、その活動に参加することを容易にするような努力が必要である、と述べています。
(世界遺産条約専門官・林菜央)