今年(2024年)7月に、新潟・佐渡金山が世界遺産に登録された。現地は大いに盛り上がっているが、世界遺産登録には実はマイナス面も。日本人が知らない世界遺産の「影」について、『日本人が知らない世界遺産』(朝日新書)から、一部抜粋・編集して解説する。
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世界遺産リストから抹消されたドレスデン・エルベ渓谷
ドイツのドレスデン・エルベ渓谷は文化的景観として登録されましたが、2009年に世界遺産リストから抹消されました。
ドイツ東部ザクセン州の首都として、エルベ川の上流域に形成されたエルベ渓谷の谷に開かれたドレスデンの町を中心に、16世紀から20世紀に至る建造物や公園を含み、ピルニッツ宮殿やドレスデン市中心街をハイライトとする文化的景観として登録されました。
登録範囲には、エルベ川や、現在もワイン醸造に使われているテラス状の丘陵に加え、19世紀の産業遺産であるブラウエス・ヴンダー橋、ケーブルカー、モノレールなどの19世紀来の技術関連の施設・交通機関も含まれていました。
ドレスデンの世界遺産リストからの抹消は、景観の中心部に建設された4車線のワルトシュレスヘン橋が、登録時に認められた顕著な普遍的価値を損ねたと判断されたからです。2006年の危機遺産登録から数年の猶予を経て、抹消に至りました。
コンクリートと鋼鉄製のこの橋は、ドレスデン旧市街の交通緩和を目的にしており、その架橋計画は第二次世界大戦以前に遡るともいわれています。
橋の建設は2005年の住民投票の対象となっていましたが、架橋した場合、世界遺産リストからの登録抹消もあり得るとは、その時点では有権者には必ずしも明確に理解されていなかったともいわれています。委員会での議論を受け、ドレスデン市議会は建設中止を決議したものの、州政府や州裁判所、連邦裁判所はこれを支持しませんでした。
2007年の世界遺産委員会ではドイツが対策を講じる猶予が与えられ、2008年にはすでに着工された部分を復元するなどの可能性を示唆しつつもう一度猶予が与えられました。しかし結果的には、ドレスデン州議会は建設の続行を決議し、翌年、登録の抹消が決まりました。