川の砂洲から急な深みに落ち込み、沈んでいく様子のイメージ。ア=膝下の水深を歩いている様子、イ=胸の深さで立ち止まった様子、ウ=岸に振り返った様子、エ=流れにより流されて深みに沈む様子(水難学会 斎藤秀俊会長作成)
川の砂洲から急な深みに落ち込み、沈んでいく様子のイメージ。ア=膝下の水深を歩いている様子、イ=胸の深さで立ち止まった様子、ウ=岸に振り返った様子、エ=流れにより流されて深みに沈む様子(水難学会 斎藤秀俊会長作成)

 さいわい男性は1分ほどすると、か細い自発呼吸を取り戻した。約30分後、消防車と救急車が到着し、男性は病院に搬送された。

 振り返ってみると、筆者は後方からの声を聞くまで、すぐ近くで溺れる男性の異変にまったく気づかなかった。男性は声も上げず、静かに水の中に沈んでいった。

 ほんの20~30秒ほどの出来事だった。もし、男性の髪の毛が水面に見えなかったら、すぐには見つからず、そのまま下流まで流され、亡くなっていた可能性が高いと感じた。

もう浮上できない

 付知川もそうだったが、水難事故は大都市に近い河川で集中して起こる。

 河川財団によると、2003年から21年にかけて発生した河川での水難事故は3311件。もっとも事故が多いのは名古屋近郊の長良川で100件、近くの木曽川は42件。東京近郊では多摩川が64件、相模川が48件、大阪近郊では吉野川が33件となっている(湖では琵琶湖が117件)。

 岐阜県庁河川課の担当者は長良川で水難事故が多発している背景について「名古屋から1時間くらいのところにバーベキューを楽しめる広い河原があり、多くの人が訪れます。一方、大きな川ですので、中央付近の水の勢いは強く、うかつに近づくと流されてしまう。そこで深みにはまってしまうと、溺れてしまう」と、説明する。

「深い場所だと水深は12メートルもあるんです。ところが、そのことを知らない人が多い。川底に引き込むような流れもあって、これだけ深いところで溺れると、もう浮上できません」

 川で溺れる典型的なパターンは4つある。(1)橋や岩から飛び込む、(2)川を横断しようとする、(3)飲酒をして川に入る、(4)川に流されたサンダルや帽子、ボールを追いかけてしまう、というパターンだ。

「橋脚の周囲は流れで川底が深く掘れていて、渦を巻いています。そこに飛び込んで、巻き込まれると、浮上できなくなってしまう。岩の周囲も同様で、その下は『アンダーカット』といって、水の力でえぐれています。そこに体がはまり、溺れてしまう。もう一つの典型的なパターンは川を横断する途中で流されてしまうこと。想定外に中央部分の流れが速かったり、急に深くなっていると、流されてしまう」(同)

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「自分だけは大丈夫だろう」と考える