興奮したファンがフランス国歌を歌いだすと大合唱に
市内を歩き回っていると、バーやカフェテリア、レストランにはテレビやスクリーンなどがあり、オリンピックを朝から晩まで流しているような店も多かった。フランスチームや各国の注目のアスリートが出ていると、食事や談笑中でも画面に釘付けになって盛り上がっている様子をあちこちで見かけた。
陸上の男子棒高跳びで、スウェーデンのアルマンド・デュプランティスが世界新記録に挑戦していたとき、記者はレストランにいた。彼が跳躍に向かうたびに店員や観客が画面に釘づけになるだけでなく、競技場と同じように手拍子を叩いて応援していた。
バレーのチケットを購入した際の抱き合わせで、強い関心があったわけではないが、水球のチケットも手に入った。「パリ・ラ・デファンス・アリーナ」に水球の観戦に行ったが、地元フランス戦の応援がすさまじかった。劣勢の試合だったが点数が入るたびに、地鳴りのような大歓声をあがった。
興奮したファンが一人立ち上がって、フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」を歌いだすと、続いて大合唱が始まった。アメリカ人の応援の場合、「U・S・A! U・S・A!」と連呼するように、フランス人は国歌を合唱するようだ。
その他にも「アレアレ!(行け行け!)」という応援があちこちから聞こえてきた。アレはサッカーの応援でよく知られている言葉だが、これはフランス語だ。アレを使った掛け声や応援歌がたくさんあり、「こんなにバリエーション豊かな応援ができるのか」と思うほどだった。
会場ではやたらとウェーブが起こるのも印象的だった。お構いなしで何周もやってくるため、そちらに気を取られると、肝心の試合場面を見逃すこともある。足を踏み鳴らして、波がやってくるのを知らせて参加を促すスタイルもあった。
競技が佳境に入ると波は途切れるのだが、ウェーブが楽しくて仕方ないグループがめげずに何度も「オ〜〜〜〜〜イエ〜〜〜〜!!!」と波を起こそうとしていた。こうした光景も含めて、観客は試合を楽しんでいる様子だった。
オリンピックの観戦というと、自国の選手を祈るように応援するというイメージがあった。しかし、現地で記者の目に付いたのは、もっと自由に応援している人たちの姿だ。
会場に流れる音楽に乗りながら応援している人が多くいた。自分のご機嫌をとるように応援しているのが印象的だった。自由に他国のアスリートを応援する人たちも多かった。
そこには、国と言う枠を超えて、スポーツを通じて分かち合える「優しさ」のようなものがあるように思えた。
(ライター/翻訳者・松山ようこ)