第106回大会は暑さ対策として2部制を一部導入。今後、日が暮れた甲子園での試合が増えそうだ。夜の名勝負、ふたたび──。AERA増刊「甲子園2024」の記事を紹介する。

【写真】甲子園史上最も「遅い試合終了」は何時だった?

「夜の甲子園」には、何ともいえない情緒がある(撮影/写真映像部・東川哲也)
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 夕日に照らされる甲子園のマウンドには、長く伸びた影法師が浮かぶ。夕刻を過ぎ、赤みがかった雲を少しばかり残していた空は漆黒へと移ろう。夏の主役たちにスポットライトを当てる巨大な照明灯。幻想的ですらある「夜の甲子園」には、何ともいえない情緒があるものだ。

 2021年夏の第103回大会での小松大谷(石川)と高川学園(山口)の1回戦は、午後7時10分に始まった。それまで最も遅いプレーボールは、1965年の第47回大会、報徳学園(兵庫)と広陵(広島)の1回戦で午後6時50分。その記録を塗り替える開始時間だ。6点ずつを奪い合って迎えた九回裏に高川学園が押し出し四球でサヨナラ勝利を収め、試合終了も同じく最も遅い午後9時40分となった。

第103回大会、小松大谷対高川学園は大会史上最も遅い試合終了時刻を記録。スコアボードの時計は午後9時40分を指していた

 ナイターの激戦でいえば、79年の第61回大会の3回戦で、箕島(和歌山)と星稜(石川)が創り出した死闘。午後4時6分に始まった試合は1点ずつを奪い合い、互いに譲らないまま延長戦へ。十回表から点灯して、数々のドラマを経て午後7時56分に決着。「神様が創った」と言われるほどの延長十八回の壮絶な試合は、今でも高校野球ファンの間で語り草となっている。

第61回大会、星稜対箕島は延長十八回裏、箕島・上野敬三の左前安打で二塁走者・辻内崇志が生還。ついに決着する
星稜の投手・堅田外司昭は延長十八回、無死から四球を与え、大きく息を吐く。球場には夜の闇が広がる
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追いつ追われつの攻防