「戸籍がない」人生、イメージできるだろうか。本書は何らかの事情で出生届が役所に提出されず生きることを余儀なくされた人々のルポだ。
 著者はかつて、再婚後の出産が民法の規定に引っかかり「無戸籍児」の母となった経験から支援活動を始めた。住民票が作れない、健康保険証が持てない、銀行口座を作れない──当事者が被る不利益は枚挙に暇がないが、公表がしづらいなどの事情もあり、問題は長らく社会的に放置されてきた。学校に通えず「365日変わらない風景」を見ていたと語る27歳の男性、妊娠したが母子手帳がもらえないと訴える32歳の女性……著者のもとを訪れる相談者たちは、社会の圧倒的多数派からは見えない風景を語る。「就籍」を求めるためには自身が「日本人」だと証明せねばならず、面談、指紋採取など、時に犯罪者のような扱いを受ける。「この国では、無戸籍者に『人権』はないに等しい」と著者は言い放つ。丁寧な筆致に引き込まれる。法律が絡む難しいテーマだが、まずは当事者の人生に関心を持つことから始めたい。

週刊朝日 2016年3月4日号