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 上半身だけの少女が、両肘を虫の足のように素早く動かして迫ってくる。なんとも恐怖ばかりを煽るのが、現代的都市伝説の特徴だ。聞き手を驚かすために身振り手振りも加わって語り継がれた。作家・吉田悠軌氏の著書「教養としての最恐怪談 古事記からTikTokまで」(ワン・パブリッシング)のなかから、現代の怪談「テケテケ」を一部抜粋の形で紹介する。

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* * *

 あなたは放課後の小学校の、もう誰もいなくなった校庭を歩いている。ふと視線を感じて校舎を見上げると、3階の窓に人影が一つ。

 きれいな女子児童が、窓枠に両肘をつき、両手を顔に乗せ、あなたを見つめている。
 

ふわりと飛んだ少女には

「一緒に帰ろうよ」

 思わずあなたが呼びかけると、少女はにこりと笑い返してきて。そのまま窓から飛び降りた。いや正確には、ふわりと飛んで地面に降りてきたのだ。

 あなたが驚いたのはそれだけではない。少女の体は、腰から下がなかった。

 上半身だけの少女が、両肘を虫の足のように素早く動かし、猛スピードであなたに迫ってくる。肘が地面にぶつかるたび、これまで聞いたことのないような硬い音が響く。

 テケテケ、テケテケテケテケ……。

「テケテケ」の話は、1990年代以降はすっかり学校の怪談として定着したため、メインの出現場所も小学校となった。ただそれ以前にも(「テケテケ」と呼ばれたかはともかく)上半身だけのものが高速で走る怪談は広まっていた。

 それは学校以外の場所でも、峠道でバイクや車を追跡してきたり、電柱から飛び降りて坂道を追いかけてきたりしていたのだ。それら1970~1980年代に語られていただろうテケテケ怪談は、文字媒体ではなく、仲間内のおしゃべりによるコミュニケーションだった点に注意したい。

 この怪談で最も重要なのはラスト部分、上半身だけの化け物が迫りくる様子を「再現」することだ。オチにきたところで突然、語り手が両腕を組むかガッツポーズのように突き立てる。そして両肘を素早く動かし「テケテケテケテケ!」と叫びながら聴き手の眼前まで迫っていく。この驚きこそが醍醐味であり、コミュニケーション・ツールとして広まった重要ポイントなのだ。

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吉田悠軌

吉田悠軌

よしだ・ゆうき/作家。怪談・都市伝説研究家。早稲田大学卒業後、ライター・ 編集活動。怪談サークル「とうもろこしの会」の会長をつとめ、 オカルトや怪談の研究をライフワークとする。実話怪談の語り手としてイベントやメディアに出演するほか、テレビ番組「クレイジージャーニー」では禁足地や信仰文化を案内している。「ムー」にて実話怪談、都市伝説の考察記事をレギュラー執筆する。

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上半身だけの化け物には共通点が