●イタリア人から見れば「裏切り者」であり「都落ち」以外のなにものでもなかった
山田:で、最後は国王フランソワ1世に雇われてフランスに行って、そこで死ぬ。当時のフランスって、イタリアをめちゃくちゃにした敵国なわけですよ。レオナルド自身、フランスが攻め込んできたせいで、ミラノを脱出して各地を放浪する憂き目にあってる。未完の騎馬像の原型を壊したのもフランス軍。なのに、その敵国に雇われてる。本人は気にしてなかったみたいだけど、イタリア人から見れば「裏切り者」であり「都落ち」以外のなにものでもなかったんじゃないかな。
こやま:あーそういう感じか。
山田:「あいつホラばっかふいてるから」とか「描く描く言って描かねえしさ」とか「『すごい兵器を発明した』とか言うけど実現したの見たことねぇし」とか、そんな陰口をさんざん叩かれたんじゃないかと。想像にすぎませんけど。
こやま:フランスは本人が行きたかったんですか?
山田:積極的に行きたかったとは思えませんね。よく言えば自分の才能をそこまで高く評価してくれたことに男気を感じて、悪く言えばそれしか選択肢がなかったから行ったって感じでしょう。
こやま:「納品しろー」「金返せー」って追われて?
山田:それはなかったと思うけど。
山田:フランスと神聖ローマ帝国がイタリアを奪い合って攻め込んできたせいで、国内のアート市場が低迷しているところに、破格の待遇で迎えてくれる外資が現れた。で、ほら、ダ・ヴィンチってアーティスト気質だから、政治的なことはどうでもよかったんじゃないかと思うんです。非国民と呼ばれても気にしない。「落ち着いて好きな仕事やらせてもらえるならどこでも行きまっせ」って感じだったんじゃないかな。
こやま:そんな人なのに、お金払ってくれる人が常にいたってことですよね? 不思議ですね。普通はそこで見限られるじゃないですか。そこまでお金を引き出せる能力はスゴイですよね。
●オダギリジョーみたいな芸風
山田:でも、それはダ・ヴィンチに営業力があったからじゃなく、やっぱり芸術家としての才能を期待されてのことだと思いますよ。もっとも、当時のフランスにおける名声を考えると、フランソワ1世も本当はラファエロやミケランジェロを雇いたかったのかもしれない。でもその2人はローマ教皇が手放さなかったから、「あのラファエロが尊敬してやまない才能」ってことでダ・ヴィンチで手を打ったのかも。そのほうが、ラファエロ本人を雇うより「通」っぽいし。あくまで想像ですけどね。
こやま:なるほどね。同業者に尊敬されていたから。
山田:そこは大きかったと思いますよ。あと、くどいようだけど、少なくとも一発はスゴイ作品を残しているという事実も。