
遺産の全部または一部を社会貢献団体や自治体などに寄付する「遺贈寄付」が広がりつつある。どんな思いからなのか。実際に遺贈寄付を検討する人や、行った人に聞いた。AERA 2024年8月5日号より。
【アンケート結果】「未来のために遺産を使いたい人が増えている」はこちら
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遺贈寄付という選択肢を知り、興味を持つ人も増えている。遺贈寄付の全体像を網羅した統計はなく、遺産の特質から金額にもばらつきはあるものの、団体が受け入れる遺贈寄付件数などは増加基調だ。
AERAのアンケートでは、自身の遺産の全部または一部を遺贈寄付することを検討している人、関心を持っている人が合わせて6割超に上った。
ラオスに中学校建設
その一人、50代の会社員女性も、遺贈寄付を考えている。夫も遺贈寄付に前向きで、今後それぞれ正式な遺言書をつくる予定だ。子どもはおらず、過去の相続の際に親族間でギクシャクしたことも遺贈寄付を考えるきっかけになったという。
「夫婦ふたりとも60歳直前になりました。ふたりでずっと働いてきて、環境にも恵まれ、幸いにも困ることのない老後が送れそうです。夫婦で楽しく暮らして、残った分は自分の子どもがいない分、社会の子どもたちのために役立ててほしい。私自身は活動を信頼している『国境なき医師団』と自分の母校に寄付をしたいと考えています」
40代の会社員男性は、半分程度を遺贈寄付したいと考えているという。
「うちの子は長く入院していましたが、いろいろな人の助けで元気になりました。遺産は息子にも残しますが、難病研究や同じような病気の子どもたちのためにも使いたいと思っています」
自分が引き継いだ遺産を寄付に充てる人もいる。
埼玉県の社会保険労務士、井上文子さん(72)は15年、父から引き継いだ相続財産のうち1200万円を公益財団法人「民際センター」に寄付、その寄付によってラオスに中学校が建設された。
「私も夫も、自分たちの生活は自分たちの収入でやるべきだと思っていて、遺産でラクやぜいたくをしたくありませんでした。じゃあ、この遺産をどうしようかと考え、父の思いに沿った活動に寄付することにしたんです。父は勉強が好きだったけれどすごく貧乏な子ども時代で、進学を諦めた経験があり、その分、教育熱心でした。だから、学校に通いたくても通えない子どもたちのために学校をつくるのが一番いいと考えました」