「夏は塩分不足になる」というが
普通の食事で不足することはない
夏は汗で水溶性ビタミン(ビタミンB群、ビタミンC)とともに、水溶性ミネラル(ナトリウム、カリウム、カルシウム)が排出されやすく、中でもナトリウムとカリウムが体温調節機能に重要な役割を果たしています。
よく耳にするナトリウムは、細胞の浸透圧(細胞の内外の水分や成分の濃度を調整する機能)を一定に保っています。食塩の主成分なので、塩分として摂取したものがカウントされます。“夏は塩分が足りなくなる”という報道ばかりがされるため、塩あめや梅干しを頻繁に口にしているかもしれませんが、「一日に必要なナトリウム(塩)の量」をご存じでしょうか。
命をつなぐための一日に必要なナトリウム量は、なんと600mg。食塩に換算すると、たったの1.5gなのです。みそ汁1杯で約2g、しょうゆ小さじ1杯で1gですから、普通の食事で不足することはまずありません。
日本人の一日の食塩摂取量は平均10gで、すべての年齢層で過剰摂取といわれているくらいなのです。ですから、ナトリウムはよほど暑い環境でいつも以上に大量に汗をかいたという状況でなければ、基本的に足りています。
不足しがちなカリウムの補給に
おすすめはバナナ
一方でナトリウムとともに細胞内の浸透圧を維持している「カリウム」は足りていない傾向にあります。
カリウムは細胞の内側に多く含まれていますが、夏に汗などで体外に排出されてしまうと細胞内が脱水状態を引き起こし、夏バテに陥りやすいのです。カリウムは筋肉でエネルギーが作られるのを助けているので、不足すると筋肉の収縮がスムーズにできず、夜中に足がつることも……。
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、生活習慣病の予防を目的とした成人1人一日当たりのカリウム摂取の目標量を男性3000mg以上、女性2600mg以上としています。これがどれくらいの量かというと、キュウリ1本(100g)で200mgの量しかとれません。
以前、私が栄養指導をしていると、「毎日朝のサラダでキュウリを1本食べているから大丈夫です」と言いきった方がいましたが、それでは目標量の10分の1にもならないのです。今の時期ならキウイ、トマト、スイカには、汗で失われるカリウムや水溶性ビタミンが豊富なので、積極的に摂取するといいですね。
私のおすすめはバナナ。バナナ1本で500mg近くのカリウムが含まれ、脳と筋肉のエネルギー源である糖分も含まれています。
熱中症対策には
「朝ごはん」が何より大切
そして、体温調節に欠かせない栄養素がもう一つあります。マグネシウムです。骨の構成成分であるだけでなく、神経の機能やエネルギー代謝に関わり、体温や血圧を調節するといった働きがありますが、カリウムと同様に日本人は不足傾向にあります。性別・年代ごとに推奨される量が異なりますが、およそ一日300mgを目安にするといいでしょう。
マグネシウムは大豆製品に多く含まれていて、納豆なら1パックで50mg、木綿豆腐なら1丁で約200mgも取れます。玄米ごはんでもいいですよ。
こうしてみてみると熱中症対策として、市販の塩あめやスポーツ飲料などでわざわざナトリウムや糖分を補給しなくても、3食の食事で間に合うということがわかりますね。特に寝ている間にナトリウムだけでなく、カリウム、マグネシウム、糖質も消費されているので、「朝ごはん」が何より大切なのです。
(小山浩子:管理栄養士・料理家)