入試シーズンまっただ中。
試験会場には辞書や参考書の持ち込みは禁止されています。スマホも禁止されていますね。
現在は、ネット上にも辞書がありますし、たいていのことはスマホで調べられる時代です。
でも、スマホにも登録されていない辞書があります。
想像上の生き物の名前や、ほとんど使われないような漢字も含む『大漢和辞典』とは?

関わった人はのべ25万8000人とも言われる、『大漢和辞典』
関わった人はのべ25万8000人とも言われる、『大漢和辞典』

5万字を収めた最大級の漢和辞典

『大漢和辞典』(大修館書店)は、日本人の漢学者・諸橋轍次によって編まれた漢和辞典です。
全15巻(索引・語彙索引・補巻含む)、見出しに挙げられている「親字」は約5万字。
基本的な文字の意味だけではなく、熟語も53万語収められているという最大級の漢和辞典です。
中国では古代からさまざまに歴史書、物語、経典が編まれてきました。
『大漢和辞典』は、それらの書物に使われている漢字や言葉を集めたものです。
これらの言葉や漢字は言うまでもなく、日本語にも入り込んでいます。
したがって中国の古典だけでなく、時として日本の古典文学を読む際にも必要な辞書なのです。

困難を極めた、膨大な編纂(へんさん)作業

編纂の作業は、困難を極めるものでした。
1929年から始まり、全13巻が一応の完成を見たのは1960年でした。
関わった人はのべ25万8000人とも言われます。東京ドームの最大収容人数が5万5000人ですから、4.7個のドームを埋め尽くした人数と同じことになります。驚くべき数字ですね。
用例の収集、原稿の執筆から校正、印刷のための組版など、気が遠くなるような作業が必要なのはもちろんのことですが、1945年には戦争で印刷用の版がすべて焼かれてしまいます。
この時には疎開してあった校正刷りから戦後に版が復元されました。
著者代表の諸橋は、第一巻完成を前にして白内障によって失明してしまいます(後に手術が成功して目は見えるようになりました)。

『大漢和辞典』の索引。漢字の海が広がる
『大漢和辞典』の索引。漢字の海が広がる

現在の常用漢字は約2000字。
日本人が日常的に必要とする漢字は10000字程度で十分だ、という説もあります。
『大漢和辞典』に収録された5万字のうち、想像上の生き物の名前など、特定の文献のみにしか登場せず、ほとんど使われないような漢字も含まれています。
しかし、実際に『大漢和辞典』を眺めていると、漢字それ自体が持っている面白さとともに、人間の想像力の広さにはあきれるばかりです。
たいていの公立図書館には蔵書とされているはずですから、一度のぞいてみてはいかがでしょうか。