相続を考える場合、「親任せ」にしないことがポイント。「不動産」の相続では、どのような備えが必要なのか。専門家に聞いた。AERA 2024年8月5日号より。
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「不動産は“相続の問題児”とも言える存在です」
こう話すのは、『トラブル事例で学ぶ失敗しない相続対策』などの著書もある吉澤相続事務所代表の吉澤諭さんだ。
「不動産は分けられません。更地なら半分にすることは可能ですが、30坪の自宅を分けることは不可能です。加えて、時価と相続税評価額の間に乖離があるのが一般の方には理解しにくい。都内だと相続税評価額が5千万円なのに時価は1億円だったりします。そうなると、相続人の間でどう分割すれば公平になるのかがわからなくなり、それがトラブルにつながっていきます」
不動産が絡むと「地雷」はあちこちにあるという。遺産総額が少ないほど揉めやすい統計があるが、自宅の不動産しか財産がない場合がまさにそれに当たる。吉澤さんが言う。
「2人兄弟で長男が母親と同居し、唯一の財産が時価3000万円の自宅で、それを相続する場合を考えてください」
長男は、自分が現在住んでいて母親の介護もしたから、自分が相続したいと主張する。一方、次男は「兄ちゃんは家賃も払わないで実家で暮らしているが、自分はローンを組んでマンションを買っている。やっぱり遺産の2分の1、1500万円ほしい」と主張し、対立し続けたらどうなるか。
「長男が実家不動産の取得に固執するならば、次男に対し代償金として1500万円払うしかありません。払えないのなら最終的に自宅を売って分けるしかなくなります。遺言がない以上、兄弟の相続分は同じですから」(吉澤さん)
「自宅」をどうするか
不動産の場合、親が生きている間に誰がどのように引き継ぐのかを決めておかないと、揉めた場合に収拾がつかなくなる。
「家族が集まって親の意見を聞き、それを親の遺志として遺言にしておいてもらうべきです。まずは、『母さん、念のため遺言を作っておいてね』などと話しかけてもいい。親がその気になれば相続対策を始めるきっかけにもなります」(同)