またある時は、「銃剣で人を刺す時はどうするか知っているか?」と聞いてきた。

「刺した後は剣が抜けなくなるから、足ですぐ蹴飛ばすんだ。それを上官が初年兵に度胸試しとしてやらせるんだ」──。そんな話をした。

 なぜ、父がそんな話をするか当時はわからなかった。ただ酒飲みの父を、人前で紹介したくないと思っていた。

 しかし昨年、先の黒井さんの話を聞く機会があり、「ひょっとして父もそうだったのでは」と思うようになった。父は寂しくて酒におぼれ、息子たちに話を聞いてほしかったんだろう、と。

 父は1977年、がんで57歳で亡くなった。明らかに酒の飲みすぎが原因だった。鈴木さんは思いを吐露する。

「父は、背負わなければいけない十字架を背負い、家族を持っても誰にもわかってもらえず孤独だったのだと思います。それを子どもとしてわかってあげられなかった。タイムスリップできたら、『つらかったよなあ』と声をかけてやりたい」

 鈴木さんは父の軍歴をほとんど知らない。今度、軍歴証明書を取り寄せ、父のことを詳しく知りたいと考えている。そして、自らの証言を通し二度と戦争を起こしてはいけないと伝えていきたいと話す。

「戦争は、多くの犠牲者を出すだけでなく、生き残っても心と身体に傷を負い、家族も巻き込んだ苦しみの連鎖が続きます。戦争は全てをなくします。どんなことがあっても戦争はやってはいけないと伝えていきたい。それが父への弔いであり、私たちの責務です」

(編集部・野村昌二)

AERA 2024年8月5日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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