記者が病室で見た、なつみさんの今
最終的に二人は、たんがつまって窒息に陥るなど在宅介護のリスクを鑑みて、施設介護に切り替えることを決めた。だが翔さんは、籍を入れたことに意義を感じているという。
「世の中には、妻がALSになったことで逃げちゃう夫もいるらしくて、この状況で結婚することでなつみが安心できたならよかったなと。まあ俺としては、結婚前も後も、家族として最後まで責任を持つ覚悟は変わらないんですけどね」
記者は7月上旬、なつみさんに会うために病室を訪れた。そこには、約束の時間より40分遅刻してきた翔さんに「遅かった」と不満を訴え、「さみしい」と顔をくしゃくしゃにして涙を流すなつみさんの姿があった。
翔さんは取材の最後、静かにこう口にした。
「なつみ、前は感情を表に出すタイプじゃなかったんです。ずっと自分を隠していたんでしょうね。でもこの先、どんな彼女になろうが、最後まで一緒に過ごすつもりです。なつみがこの病気になってよかったとは思わないけど、おかげで、『お互いが好き』という段階からもっと進んだ、『お互いがお互いの一部』になって果たす結婚もあるんだなと気づかされました」
取材した3組の夫婦に、「事実婚を選ぶカップルをどう思うか?」と尋ねたところ、一様に理解を示していた。家族のあり方もパートナーシップも多様化する現代、幸せの形は人それぞれ。だが、病と向き合いながらも籍を入れた夫婦たちの満ち足りた表情は、結婚というものが今なお、「誰かとともに生きる覚悟」として価値を持つことを物語っているように思う。
(AERA dot.編集部・大谷百合絵)