取材の日に二人が着ていたおそろいのTシャツは、入籍して1年の記念日となる5月1日に誠樹さんが用意したもの。「“うちの嫁”って言いたいんですよね。こんなに素敵な人と結婚できたんです、自慢の妻ですってアピールしたい」(誠樹さん)(撮影/大谷百合絵)

 今年6月1日、二人は互いの家族や親友を招き、ささやかな結婚式を挙げた。籍を入れた理由について尋ねると、こう返ってきた。

「結婚って、自分がこの人のことをどれだけ好きか、大事にしているかを端的に周りに伝える手段だなと。それに、どっちかが死んだ後も残る、『この人と一緒に生きた証』がほしいという思いもありました」(美智子さん)

「いつでも別れられる気楽さは捨てて、身を挺(てい)してでもミチのことを守りたいっていう覚悟ができたんです。障害がある俺が『身を挺してでも』なんて、面白いでしょう? でも、ミチは強そうに見えてすごく繊細だから、精神面では自分が支えるポジションにいたい」(誠樹さん)

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20代でステージ4の乳がんと宣告され…

 平野夫妻が病気を障壁と思わずに結婚を決めた一方で、パートナーの病が結婚のきっかけとなった夫婦もいる。

 愛知県在住の黒岩雅さん(28)は2年前、左胸のしこりに気づいて病院に行き、乳がんと診断された。腫瘍の大きさは8センチ、しかも肺やリンパ節に転移しているステージ4の末期がんだった。雅さんは不安に押しつぶされそうになりながら、付き合いはじめて約1年半の恋人・大誠さん(26)にLINEをした。

 連絡を受けて、会社からタクシーで病院に駆けつけた大誠さんは、当時の心境をこう振り返る。

「『あと2、3年仕事を頑張ってお互い収入が安定したら結婚しようね』『子どもが産まれたらどんな名前にしようか』なんて二人で話していた明るい未来が、全部遠くなっていくような感覚でした。病院に着くと、妻は『もう治んないんだって』と……。こらえきれず、ロビーで抱き合って泣きました」

 一方の雅さんは大誠さんを待つ間、病状のほかにも大きな不安にさいなまれていた。

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病院でのプロポーズの理由