『笑う森』(2420円〈税込み〉/新潮社)樹海のような深い森で発達障害を持つ5歳の男の子が行方不明になる。1週間後に無事保護されるが、一人でどうやって生き延びたのか。母親と叔父が探るうち、訳ありの人々が森に立ち入っていたことがわかる。死体を遺棄しにきた女、ユーチューバーの男、組の上納金を持ち逃げ中の男……。彼らと男の子の遭遇を描く長編小説

 今回の作品も自閉症スペクトラム障害の特性や、その現れ方が人それぞれであることがわかり、この障害を、より身近に感じられる。

「そんなに甘いもんじゃないという批判もあるかもしれないけど、障害のために森に迷いこんでしまった男の子は、そのおかげで1週間を無事に過ごした。ある意味、たくましい子なんじゃないかと思いました。一つの個性として見てもらえたら、という気持ちです」

 小説家の中には書くことが楽しい人もいるが、荻原さんは書くのが苦しい派。

「もうつらいことだらけです。まず書くことが浮かばない。島も何も見えないのに海で舟を漕いでいる感じ」

 それでも無事に着地して完成すると、また書いてみようという気持ちになる。

『笑う森』では男の子に出会った人々も、彼自身も一歩前に進んでいく。

「自分の小説はすごいハッピーエンドではなくバッドエンドになることもありますが、どんな結末でも主人公や登場人物がちょっと変わる。そこに共感して、こんな考え方もあるんだと思ってもらえたらいいなと。何かしらお土産を持って帰ってほしくて、いつも小説を書いています」

 ネットの誹謗中傷、ユーチューブのニセ動画など、現代的な要素が織り込まれ、最後にすべての謎が解ける。お土産の温かさが胸に残る作品だ。

(ライター・仲宇佐ゆり)

AERA 2024年7月22日号