今回の作品も自閉症スペクトラム障害の特性や、その現れ方が人それぞれであることがわかり、この障害を、より身近に感じられる。
「そんなに甘いもんじゃないという批判もあるかもしれないけど、障害のために森に迷いこんでしまった男の子は、そのおかげで1週間を無事に過ごした。ある意味、たくましい子なんじゃないかと思いました。一つの個性として見てもらえたら、という気持ちです」
小説家の中には書くことが楽しい人もいるが、荻原さんは書くのが苦しい派。
「もうつらいことだらけです。まず書くことが浮かばない。島も何も見えないのに海で舟を漕いでいる感じ」
それでも無事に着地して完成すると、また書いてみようという気持ちになる。
『笑う森』では男の子に出会った人々も、彼自身も一歩前に進んでいく。
「自分の小説はすごいハッピーエンドではなくバッドエンドになることもありますが、どんな結末でも主人公や登場人物がちょっと変わる。そこに共感して、こんな考え方もあるんだと思ってもらえたらいいなと。何かしらお土産を持って帰ってほしくて、いつも小説を書いています」
ネットの誹謗中傷、ユーチューブのニセ動画など、現代的な要素が織り込まれ、最後にすべての謎が解ける。お土産の温かさが胸に残る作品だ。
(ライター・仲宇佐ゆり)
※AERA 2024年7月22日号