音痴だと言いましたが、まったく歌を歌わないわけではないのです。実は2曲だけ、持ち歌があります。「北帰行」と「さらばハイセイコー」です。

「北帰行」は東大空手部の部歌のようなもので、合宿の終わりには茶碗酒を飲んだ後、全員が肩を組んで合唱しました。それで覚えてしまいました。いまでも歌うと、将来への希望に満ちていた遠き日が蘇ってきます。

「さらばハイセイコー」は、外科医時代に競馬に夢中になったことがあり、その時にこの歌を一生懸命、覚えました。引退したハイセイコーがすごく好きだったんです。

 その後、内モンゴルに行くようになりましたが、彼ら草原の民は歌が好きなんです。酒宴ともなると、歌を強要してきます。そんな時は「さらばハイセイコー」を歌います。「馬の歌ですよ」というと遊牧民からは拍手喝采されます。

 音楽というのは、私が大事にしている心のときめきと直結していると思います。私もトランペットを諦めなければよかったかもしれません。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2023年4月14日号

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