これはご家族にとって、大変ショックな出来事に感じられるため、ついつい「わかる? わかるよね⁉」と必死になってしまうのです。
 

クイズの答えは先に出す!

 大切なのはクイズではなく、いち早く自分から名乗って答えを明かすこと。「○○よ」と名乗ることで、脳の記憶の部分と顔が一致し、「おお、○○か」とわかってもらえます。

 場所のことが苦手ならば、「ここは〇〇だよ」と教えてあげましょう。私たちだって、電車に乗って寝過ごすと、今どこの駅付近なのかわからなくなるときがありますよね。そして、次の駅のアナウンスが流れると、ホッとするわけです。

 これと同じで、先に情報を与えてあげることで、本人は安心します。認知症の方に対しては、不要なクイズを出すよりも、むしろ先に答えを教えてあげるような形でコミュニケーションを進めてください。
 

 78歳の高田さんは中等度の認知症で、「いつ」がわからなくなっています。今日の予定も忘れてしまうので、近所に暮らす息子さんのお嫁さんが、毎朝電話でその日の予定を確認してくれていました。

 しかし、やっぱり「記憶の確認クイズ」を出してしまいます。

 「お義母さん、今日の予定わかる?」「ほら忘れてる。昨日も言ったでしょ?」

 そして「今朝も義母に電話で予定を聞いたけど、まったく覚えていないのよ」と私に、なんの悪気もなく言ってくるのです。私は、お嫁さんの頑張りを認めたうえで、「もし毎日お義母さんの家に立ち寄れるなら、明日の予定を書いて置き手紙をしませんか」と提案しました。

 しかし、この提案は失敗でした。

 せっかく置き手紙をしても、高田さんはその手紙をなくしてしまうといいます。箱の中に入れたり、バッグやズボンのポケットに入れてわからなくなったり。お嫁さんは、「もうこんなに苦労して書いても意味がない! 私だけ頑張っていて、バカみたい。家に行くのもいやになる」と言い出す雨模様。

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気持ちはしっかり届いていた