同じものを何度も買ってきてしまう。冷蔵庫に賞味期限切れの食品があふれる。そんな認知症の人の困った振る舞いも、その心の中を覗けば、行動の深い意味が見えてくるという。理学療法士・川畑智氏の著書「ボケ、のち晴れ」(アスコム)から一部抜粋し、認知症への理解について考える。
【写真】ムチを手にしたイメージをがらりと変えて、認知症の母への献身を貫いている人はこちら
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ついさっきのことを忘れたり、同じものを何度も買ったり、見えないものを見えると言ったり―
でも、本人は、いつだって一生懸命です。認知症の人の「心の中」を覗いてみれば、そこにある思いに気づき、ふいに日が差してきます。
かまぼこと愛情の賞味期限
「そうか、オレのために買うてきたとですね……」
50代の山本さんは、そう言って私の前で泣き崩れました。
山本さんのお母さんは、そのとき80代。
同じものを何度も買ってしまうなど、物忘れの症状が目立ってきたため、息子の山本さんと一緒に私の教室を訪ねてくれました。
そこで、簡易的に認知機能を測れる「ブレイン・チェック」を試してみたところ、認知症の疑いがあるという結果になったのです。
認知症になると、記憶をつかさどる脳の海馬の衰えから記憶障害が起きます。なにを買ったかわからなくなったり、あいまいになったりして、同じ食材や食品で冷蔵庫がいっぱいになることがよくあります。
「同じものを買う」といっても、買うものは人それぞれ。卵や牛乳、ヨーグルトなど食品ばかりを買ってくる方もいますし、トイレットペーパーや石鹸などの日用品ばかりを買ってくる方もいます。
山本さんのお母さんが決まって買ってくるものは、魚の練りものでした。
山本さんはすでに実家を離れていて、お母さんは一人暮らしです。山本さんは仕事が忙しく、お母さんの様子を見に行けるのは、月に1度程度。
帰省して冷蔵庫を開けるたび、かまぼこやちくわ、つみれなどの練りものがいくつも入っていて、しかも前見たときよりも増えている……。