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 1948年、短編『くじ』で一大センセーションを巻き起こしたシャーリイ・ジャクスン(エリザベス・モス)はスランプに陥っていた。夫のスタンリー(マイケル・スタールバーグ)は青年とその妻ローズ(オデッサ・ヤング)を居候させ、シャーリイの世話をさせるが──。実在の作家をモデルにした異色作「Shirley シャーリイ」。監督のジョセフィン・デッカーさんに本作の見どころを聞いた。

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 高校生の時に『くじ』を読み、その衝撃をいまでもハッキリと覚えています。シャーリイ・ジャクスンはスティーブン・キングをはじめとするホラー小説家やさまざまなアーティストに影響を与えた偉大な作家です。彼女の作品は辛辣で正直で、自分の中の暗い部分を直視している。彼女は女性が生きるのに大変な時代にそれを成し遂げました。脚本家のサラ・ガビンズと私はまず彼女の名前がもっと知られるべきだと思いました。

 伝記映画にしようとは思いませんでした。「シャーリイを彼女の小説のなかにぶち込んだらどうなるだろう?」と思ったのです。本作は彼女の小説のように現実と虚構が交錯するサスペンスであり、女性の物語でもあります。私はシャーリイとローズの関係をより予測不可能なものとして描きました。

 シャーリイの時代に比べ女性は社会的に力を持ちつつあります。しかしそれを否定する力も強まっています。私はテキサスの出身なのですが、いま女性の妊娠や出産に関する権利がどんどん奪われていく状況に懸念を持っています。私は幸運にも映画監督として仕事ができていますが、教師やケア産業、レストランなどサービス産業に関わる女性たちはいまも低賃金やセクハラなどの搾取を受けている。女性がパワーを持つことは特に男性にとってよほど怖いものなのでしょう。だからこそ女性が協働し、力を解放していくこの物語に大きな意味があると考えました。

ジョセフィン・デッカー(監督)Josephine Decker/1981年、イギリス・ロンドン生まれ、米テキサス育ち。映画監督、パフォーマンス・アーティスト。俳優としても活躍している。5日から全国順次公開

 本作の編集スタッフに言われました。「この映画は『ああ、そうだったんだ』で終わるのではなく、最後にまた何か大きな罠にはまってしまったように感じる」と。映画が終わってもアートは終わっていない。観た人が考え、自分なりに完成させていく。私はまさにそんな映画を撮りたかったのです。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2024年7月8日号