そして、SNSにもゲームにもなじみが薄い高齢世帯でも、「家族アルバム みてね」の運営元と言えばピンとくるかもしれない。家族に子どもの写真を共有するアプリで、7言語・175の国と地域で使われている。
さらに近年はスポーツ産業にも注力。公営競技事業への参入のほか、プロバスケットボール・Bリーグの千葉ジェッツふなばし、サッカー・JリーグのFC東京の親会社にもなっている。
多業種間にまたがるコングロマリット化しているとも見えるが、屋台骨は一貫している。
「私たちは、今もむかしも『コミュニケーション屋』なんです。コミュニケーションは人生の必需品で、豊かなコミュニケーションが人生を豊かにすると思っている。提供するサービスや事業は、コミュニケーションの活性化に向けた取り組みです。SNS『mixi』や『みてね』のような、家族や友人らとのつながりのなかで共感したり喜びを共有したりする温かいコミュニケーション、そして、スポーツやゲームのような、一緒に熱中し思わずハイタッチしてしまうような熱いコミュニケーション。そのどちらも大切にしています」
共感のニーズはさらに
一方、課題もある。木村さんの社長就任時から模索を続けてきた「モンスト一本足打法」からの脱却はなおも道半ばだ。同社の24年3月決算は売上高1468億6800万円。そのうちの7割近くを、モンストを中心とした「デジタルエンターテインメント事業」で稼いでいる。モンストの業績が会社全体の業績にも直結する構造だ。モンストは今もスマホアプリの収益ランキングで上位の常連だが、ここ数年スマホゲーム市場は頭打ちともされ、売り上げは最盛期から比べると落ち込んでいる。木村さんが次の収益源とするスポーツ事業などで、mixi、モンストに続く第3の大ヒットを生み出すことができるのか。また、少子化が進み日本市場がシュリンクするなかで、モンストでは失敗したという海外展開もカギになっていくだろう。
それでも、コミュニケーションへのニーズはさらに高まるはずだと木村さんは語る。
「文明の歴史は、余暇時間をいかに長くするかの歴史でもあったと思っています。自動車が発明されて移動時間が短くなり、洗濯機や食洗機が家事負担を減らした。AIが隆盛して人間の仕事が減れば、さらに多くの余暇時間ができる。そんなときに家族や友人と一緒に盛り上がれる、あるいはつながって共感できるサービスのニーズはどんどん高まるはずです。そこに新しい事業をつくっていきたいですね」
(編集部・川口穣)
※AERA 2024年7月8日号より抜粋