【ライオンペット】事業推進部 ヘルスケアグループ 袴田祐輔(はかまた・ゆうすけ)/1963年生まれ。静岡薬科大学院修了。88年にライオン入社後、有効成分の研究に従事。2003年研究開発本部オーラルケア研究所に配属。16年ライオンペットに異動し、現職(撮影/写真映像部・松永卓也)
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 全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年7月8日号にはライオンペット 事業推進部 ヘルスケアグループ 袴田祐輔さんが登場した。

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 犬と、ペットの口の中を健康に保つためのオーラルケア商品を8年間にわたり研究・開発している。

 当初、歯みがき経験のない犬や猫に異物と捉えられない歯ブラシを作ることは、途方もない試練に感じた。しかし、人を対象とした歯ブラシの製品研究を12年間してきた実績を生かせると思い、挑戦することにした。

 通常は製品化に2〜3年かかる人間の歯ブラシで、最も苦戦するのが、歯にあたる毛の部分の開発だ。毛を植える配列のパターンを決め、自分の手で毛を幾重も植えていく。穴の配列と毛の素材、太さ、形状の組み合わせで一度に30〜50種と作る。

 手で持つハンドル部分は耐久性や保存性、使用性で素材を選び抜き、形状が決まれば金型を作って最終判断するが、問題があればやり直しだ。少しでも良いものを作りたいと、研究に手を抜くことは一切しない。

 ペット専用の歯ブラシ開発の一番の課題は、動物は人と違い、良し悪しの判断を言葉ではなく、仕草や行動でしか見ることができないことだ。

 犬猫の歯ぐきはとてもデリケート。人間の子ども用歯ブラシでみがいてしまう人もいるが、犬猫にとっては硬く、傷つけてしまうリスクも。

 口の形や歯の数も人と違うため、ヘッドの部分は薄く、ネック部は細く、飼い主がみがきやすい形状など、さまざまな観点で研究を続けている。

 こうして2020年に発売したPETKISSデンタルブラシは、犬猫の口の大きさに合わせたヘッド部で歯周ポケットに届く歯ブラシとして評価され、売り上げは3年間で約2倍に。その他に、飼い主の指の延長で歯みがきができるユニークな商品もあり、順調に市場は拡大している。

 歯ブラシを使った週1回以上の歯みがき実施率は、犬が約30%、猫が約15%にとどまる。一方、2歳までの犬の8割、猫の7割が口腔に何らかの健康課題を抱えているという。夢は歯ブラシの実施率を100%に高めることだ。

 入社から36年。多くの失敗をしてきた。しかし、その経験こそが、自分を成長させてくれた。壁にあたっても、「諦めたらそこで試合終了」をモットーに、途中で投げ出さずに、どうやったらできるかを模索することを肝に銘じ、日々研究に没頭する。(ライター・米澤伸子)

AERA 2024年7月8日号

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