全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年7月1日号にはロングルアージュ 社長 マニキュアリスト 東條汀留さんが登場した。
【写真特集】大物がズラリ!AERA表紙フォトギャラリーはこちら
* * *
国内では珍しいマニキュア専門店は、東京・広尾駅すぐの場所に佇む。創業から36年、一貫して「美しく健康な爪」を提唱する。爪に色やデザインを施すことは二の次。最優先するのは、爪の形、爪周りのケアを徹底し、自爪の大切さと、その美しさを知ってもらうことだ。
当時、まだ日本でネイリストという職業がなかった頃に、知人から「やってみない?」と声をかけられた。「面白そう」と軽い気持ちで始めたのは、そんなに長く続けないだろうと思っていたから。しかし、爪について知れば知るほど「奥が深くてやめられなかった」と振り返る。
爪を手入れする意味は、審美性だけではない。それを痛感したのは、仕事を始めて数年が経った頃、ある人と出会った時だ。爪を切り過ぎる傾向があったその人の爪は、線ほどの細さになっていた。見た目だけではなく、「重いものが持てなくなった」と嘆いていたという。それでも、時間をかけて爪の状態を良くし、最後はきれいになった。
当の本人も、「私の爪は縦じわが入るほどひどい状態だったんです」と打ち明ける。当初は甘皮の手入れ方法や、ベースコートを塗るなどの正しい知識を得ておらず、爪を傷めてしまっていたそう。
「まずは自身が改善しよう」
そう心に決めた。約1年かけて自爪を整えていく中で、「きれいな爪ですね」と、言われる機会が増えていった。
試しに、10本の指の爪を調べてみた。人さし指の場合、自分を指すようにして爪を正面から見た時、爪の左右両端を結んだ距離を「幅」とし、その幅の直線から、爪のカーブが最も高い位置までの距離を「高さ」とする。その時、高さと幅の比率が全て1:1.6だったという。
そうして生まれたのが、爪が最も美しく見えるとされる“黄金比”だ。爪を習慣的に整えることで、自然と丸みを帯び、横幅が狭まる。誰しもが手をかけた分、美しい爪になることを自身で証明した。
「肌の状態が良くないと、メイクしてもきれいに見えないですよね。スキンケアと同じで、ネイルケアも必要不可欠です。この仕事に出合えて、私は本当に幸せだなと思いましたね」
ネイルケアが当たり前になる時代がくる日は、そう遠くないかもしれない。(フリーランス記者・小野ヒデコ)
※AERA 2024年7月1日号