一方で私たちヒトは、遺伝子レベルで見れば、本来の寿命は40〜50年ぐらいに設計されているようです。心臓を動かしている心筋細胞も、本来の寿命は55年ぐらいとされています。もちろん、人体のパーツの中には角膜のように、100年ぐらい保つものもあります。けれども、心臓や肺など四六時中動いている臓器は、それだけ早く疲弊してしまうのです。
遺伝子は天使にも悪魔にも
けれども、人体には、こうしたエピゲノム変化を修復する機能も備わっています。その代表選手が、長寿遺伝子サーチュインです。
押入れがごちゃごちゃに乱れてくる(=老化する)と、ハウスキーパー(=サーチュイン遺伝子)がやってきて、元通りに整理整頓(=修復)してくれます。もちろんサーチュインだけではなく、先述のFOXO3などいろいろなハウスキーパーが存在します。それで元通りとなれば一件落着というわけです。
他にも長寿遺伝子として知られているものに、APOEがあります。以前、目にした興味深い論文に、FOXO3やAPOEに遺伝子多型(SNPs)のある人は長生きする、というものもありました。遺伝子多型を簡単に言い換えれば、個人ごとの配列の違いで、1塩基の違いをSNP(スニップ)といいます。とはいえ、その遺伝子のエピジェネティックな変化については明らかにされていません。特にAPOEについては、「APOEε4 」がアルツハイマー病のリスクを高めるのに対して、「APOEε2 」と「APOEε3 」はそのリスクを下げるといわれています。同種の遺伝子が、天使にも悪魔にもなるわけです。
要は、こうした遺伝子配列の微妙な差異が、ひいては寿命の違いになるのです。
想像してみてください。押入れのハウスキーパーも、生涯を通じて万能というわけではない。紫外線に何度もさらされたり、酸化ストレスにたびたび傷つけられれば、さすがのハウスキーパーたちも疲れてしまう。疲れ果てたハウスキーパーの中には、修復手段を忘れる者も出てくるでしょう。そうなると押入れの秩序は崩壊、すなわち老化の始まりです。
身体はナマモノだとよくいわれますが、度重なる遺伝子レベルの修復作業は、修復自体を不可能にしてしまう。ですから、DNA損傷型エピゲノム変化を起こすような要因、言い換えれば紫外線を浴びたり酸化ストレスを引き起こす行為は、できる限り避け続けるほうがいいのです。